1票の格差を2倍未満に是正するため衆院選挙区画定審議会が15都県の小選挙区定数を「10増10減」する区割り改定案の策定作業を進めている。有権者が投じる1票の価値をできる限り平等に近づけることは、選挙で選ばれた議員で構成する国会の責務だ。同時に議席が削減される地域の声を国政に反映させる一段の努力が求められよう。

 衆院の1票の格差を巡っては、最高裁が過去の衆院選を「違憲状態」と判断した際に、各都道府県にまず1議席を配分する「1人別枠方式」を問題視した。これを受け、人口比を反映しやすい「アダムズ方式」を導入した改正公選法が2016年に自民党主導で成立。国勢調査に基づき、恒常的に是正措置を実施する仕組みを整えた。

 最大格差2・08倍となった昨年10月の衆院選を巡る1票の格差訴訟一審判決は合憲9件、違憲状態7件と判断が割れたが、前者の中には次期衆院選から是正されるという改正公選法への評価に言及したものもあった。

 ところが昨年末から自民党内で異論が出始める。20年の国勢調査を踏まえると、減員される県は宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎と、伝統的に自民党が強い地域と重なるからだ。このうち4県は議席を独占。山口は安倍晋三元首相、林芳正外相、岸信夫防衛相ら大物の世襲議員が顔をそろえ、1減となれば公認調整が難航するのは避けられそうにない。

 こうした事情からか、細田博之衆院議長が「地方の政治家を減らすだけが能ではない」と口火を切り3増3減の私案を提示。二階俊博元幹事長も「(10増10減は)迷惑な話だ」と強く反発する。

 ただ、細田氏は三権の長で軽々に口を挟むべき立場ではないし、改正公選法の提出者でもあった。二階氏は当時総務会長だ。法律を1回も適用せず見直しに言及するのは、あまりに身勝手で党利党略、私利私欲と批判されても仕方あるまい。

 自民党内に渦巻く「都市部の議員が増えれば、地方の声が届かなくなる」との懸念は理解できる。しかし、憲法43条は「両(衆参)議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と規定している。国会議員は選出される選挙区の代表だが、すべての地域の代表であることも忘れてはいけない点だ。

 地方の意見を政策などに生かすには、定数の少ない地域選出の議員や地方議員の声をくみ取り尊重するなど、政党の意思決定システムの中で改善を進めるべきではないか。

 小選挙区比例代表並立制という現行制度を維持しながら、地域の代表としての議員の数を確保したいなら、比例代表を活用する方法もある。小選挙区で敗れても比例代表で復活する重複立候補制は有権者の評判が芳しくない。これを廃止し、各ブロックの比例名簿上位に、選挙区が削減された県の候補を優先的に並べる工夫があってもいい。

 格差是正を含む選挙制度改革は民主主義の土俵づくりだ。参院では改正公選法の付則に抜本改革を行うと明記しながら、定数を6増するだけの弥縫(びほう)策で済ませ「約束」を果たさないままだ。選挙が近づいてから慌てて対応するのではなく、衆院と参院の役割分担、二院制の意義などに関しても与野党が腰を据えて吟味した上で、在るべき制度を構築すべきだろう。