先進国と新興国が集う20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、ロシア制裁を巡る対立を残したまま閉幕した。日米欧はウクライナへの武力行使を続けるロシアを厳しく非難したが、中国などは同調しなかった。ロシア制裁は長期化が見込まれ、G20の亀裂はしばらく続くだろう。
しかしコロナ禍からの成長回復、インフレ、資源価格の高騰などの問題が世界を覆っている。米国の利上げは、発展途上国からの資本流出を招きかねないリスクをはらむ。ロシアが除外され参加国の対立で機能不全に陥ったとしても、G20は継続しなければならない。
G20は1990年代後半のアジア通貨危機をきっかけに生まれ、2008年のリーマン・ショックからは首脳会議も開かれるようになった。日米欧の先進7カ国(G7)だけでは、世界経済の成長をけん引できなくなったためだ。財政・金融政策を中心とする国際的な経済秩序に中国、インド、ロシアなどを組み込むことも目的とされた。
参加しているのは民主主義、市場重視といった価値観を共有する国・地域だけではない。経済発展にも大きな差がある。対立する相手と本音で議論しながら一致点を探る作業が、各国の財政・金融当局の信頼醸成につながっていることを軽視するべきではない。
ロシアの財務相が発言する際には米国、英国、カナダなどの参加者が退席し、鈴木俊一財務相は席を離れず、ロシアの発言を直接確かめた。日米欧にとって大事なのは、多くの市民を犠牲にしながら侵攻を続けるロシアに対し、結束して制裁を続けることだ。
急ピッチで続く円安問題は、日米財務相会談に委ねられた。米国にとって最大の関心は8%を超えるインフレの抑止だろう。ドル高は輸入物価の引き下げ効果もあり、円安是正で協調するのはハードルが高い。
円安の要因になっているのは日米の金利差だ。米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ退治のため、利上げを続ける方針を示しており、大規模な金融緩和を続ける日本との金利差はさらに開く。日銀の対応に期待がかかる局面と言える。
日銀は物価上昇率を2%に引き上げることを金融政策の目標にしている。金融政策決定会合では、大規模緩和を強く支持するリフレ派が審議委員の多数を占め、直ちに政策を変更できるわけではない。しかし10年物国債を金利0・25%で無制限に買い取り、強引に金利水準を抑え込むのが妥当なのだろうか。
緩和政策によってコロナ禍からの経済再生を支援するのが日銀の考え方だ。だが、円安による資源や食料品の価格上昇は暮らしに不安を広げ始めている。急ピッチで進む円安に背を向け、一本調子に金利を抑え込む手法が国民の理解を得られるとは思えない。
大規模緩和からの政策転換は、経済動向を見極めて周到に準備しなければできない。しかし行き過ぎた為替変動に対応する手段は、現行政策の枠内でもあるはずだ。短期金利から長期金利まで期間ごとに設けている目標水準を、柔軟に運用するのも一案だろう。
黒田東彦総裁も「急速な円安はマイナスが大きい」と認めている。為替の動きも視野に入れ、市場の実勢を読み取りながら、金融政策を運営する姿勢を期待したい。