2022年度補正予算案を審議する衆院予算委員会が2日間開かれ、岸田文雄首相に対して立憲民主党の泉健太代表が、夏の参院選前では恐らく最後となる国会での「党首討論」に挑んだ。しかし講演活動では積極的に政策を発表する首相が無機質答弁、安全運転に終始。野党側も追及が甘い上、明確な対抗軸を示せず、議論は尻切れとんぼに終わった。国会の「空洞化」は深刻だ。

 歳出総額2兆7千億円の補正予算案は物価高対策が目的だ。ガソリンなどの値段を抑える補助金に充てるほか、物価対策で使う予備費を補填(ほてん)する。泉氏らは現下の円安対策や、春から公的年金支給額が0・4%引き下げられた年金生活者への対応が補正予算案に含まれていないと追及した。

 だが首相は円安を巡り「見通しは不透明。だからこそ補正予算であらゆる不測の事態に備える」と、打つ手がないと認めたような無気力な答弁である。

 年金生活者について首相は、昨年11月に決めた住民税非課税の困窮世帯への10万円給付、19年開始の月額5千円の年金生活者支援給付金で対応すると回答。泉氏は「言った対策は今の円安の前の話だ」とかみつくが首相は忍の一字。追加対策まで議論は及ばなかった。

 だが首相は国会の外では冗舌だ。ロンドンの金融街での講演では「6月には他の先進7カ国並みに(新型コロナウイルス対策の)水際対策を緩和する。資産所得倍増プランを進める」と歯切れが良かった。予算委初日には都内での国際交流会議で、約2年間止めた訪日外国人観光客受け入れの6月10日再開を表明した。

 なぜ堂々と国会や記者会見などで発表しないのか。一方的に語れる講演では、野党議員や記者団に厳しく突っ込まれることもなく、マイペースで言いたいことだけ言える。それが首相の動機だとするなら、国会軽視であり「国会逃避」だと言っても過言ではない。

 ほかにも首相は、国会の外での言動を巡り追及された。首相は先に来日したバイデン米大統領との会談で「防衛費の相当な増額を確保する」と約束した。泉氏は、自民党が求めている防衛費倍増を目指すのかただしたが、首相は「何が必要か具体的に考えて積み上げていく」と煙幕を張る。

 20年発効の日米貿易協定では、日本が米国産牛肉などの輸入関税を引き下げた代わりに、対米輸出する日本車の関税撤廃の第2弾交渉を4カ月で終えることになっていた。バイデン氏との会談で督促しなかった首相に、泉氏は「国益を主張していない」と迫る。しかし首相は「米国の環太平洋連携協定(TPP)復帰が成就しない間は協議を続ける」と繰り返し、何の展望も示さなかった。

 「子ども関係予算倍増」「健康危機管理庁設置」なども細部を詰められると首相は答弁に窮さざるを得なかった。甘い現状認識にはじまり、具体的な行程表を欠く根拠薄弱なスローガンが政策であってはならない。

 一方、泉氏は「物価高と戦う」として円安是正のための金融政策見直し、消費税率5%への時限的引き下げなどを主張した。しかし日銀にどう金融政策を変えさせるのか。消費税率半減が混乱なく実現できるか。疑問は尽きない。現実味がある対案でなければ国民の期待を集められず、国会活性化も遠い。