幼い頃「どちらにしようかな、天の神様の言う通り…」という数え歌で遊んだ経験があるという人は多いのではないか。誰に聞いても大抵「言う通り」までは共通するのだが、それ以降は地域によって多様なパターンがあるようだ。さまざまな地域、年代の職場の同僚や先輩から数え歌の続きを聴き取ると、バリエーションの多さに驚かされた。詳しく紹介したい(Sデジ編集部・吉野仁士)
数え歌は複数の選択肢がある物事を決める際、歌詞の1音ごとに対象物を交互に指さし、最後の1音の時にさしていた方に決める。
「言う通り」までだと22文字で、二者択一の場合は最初に指さしたものの逆が選ばれることになるため、運の要素を増やすために各地で言葉が加えられたと考えられる。言葉は簡単に増やせるため同じ地域、学校でも複数の種類があるようだ。
聴き取った内容を紹介する。
・「ぎっとんばっとんおまけの柿の種」(30代、安来市)
まずは記者が小学生の頃に使っていたもの。なぜ使うようになったのか定かではないが、友人が使うのを聞いてまねをするようになったと記憶している。ぎっとんばっとんが何の音なのかは分からないし、柿の種が何のおまけなのかもいまだに分からない。
・「ゲゲゲの毛虫がへをこいた」(40代、松江市)
県都、松江市では隣県ゆかりの超有名漫画に関する擬音が入っているが、キャラクター名の部分は毛虫にすり替わっている。「へをこく」のくだりはいかにも子どもが好きそうで、小学生が楽しんで歌っている様子が目に浮かぶよう。

・「ゲゲゲの鬼太郎 へをこいた」(20代、同)
こちらは堂々と丸ごと作品名を使っている。時代が進むにつれて作品の知名度がさらに上がり、著作権に関する意識も薄れていったのだろうか。ちなみに、別の社員の子ども(小学4年生)の間でも同じ言い回しが継続して使われているという。
・「ゲゲゲのゲのゲのあぶら虫」(40代、出雲市)
松江市に次いで同じ擬音が使われ、毛虫とは違うが虫も登場する。アニメや虫など、子どもが好きそうな単語をよく見かける。子どもに身近な言葉が、長い年月をかけて歌に盛り込まれていっているのかもしれない。
・「あべべのべのべの柿の種 アイスクリームが溶けるまで はい決めた」(20代、同)
同じ地域なだけあって少し似た音はあるが、言葉と長さが大きく違う。安来で出てきた柿の種はこちらでも使われているようだ。「アイスクリームが溶けるまで」といった、子どもの数え歌とは思えないような風流を感じるくだりもあり、興味深い。

・「けっけのけのけんぼうず、油揚げ、柿の種、ミカンの種」(益田市、50代)
3回目の柿の種に加え、何やら食べ物に関する言葉が多く出てきた。どうやら、多くの地域では食べ物の単語が1個は出てくる傾向にありそう。出雲部と石見部でありながら「◯◯の◯の~」というリズムは共通している。社員によると「けんぼうず」が何者かについては不明だという。
・「ぎっとんばっとんひよこのお散歩楽しいな」(米子市、20代)
隣接する安来市と同じ擬音が登場し、山陰らしいのどかな光景を想像させる言葉が続く。社員によるとこの後、さらに「あかしろきいろ」と続くこともあったという。結果に不満があった場合は言葉が追加されるあたり、子ども特有の往生際の悪さを体現している。
・「柿の種 ユリの種」(鳥取市、50代)
鳥取市ではシンプルながらも頻出の柿の種をしっかり抑えつつ、花の種が登場した。地域としては離れるが、さすがとっとり花回廊(鳥取県南部町)がある県といったところか。何かしらの種が出てくるのは多くの地域でパターン化されているようだ。米子市もだったが、鳥取県でありながら松江、出雲両市で使われた「ゲゲゲの~」のくだりが全く出ない点は意外だ。

・「赤豆、白豆、黄色豆、あっぷっぷ」(隠岐の島町、20代)
隠岐の島町では柿に代わって豆が選ばれ、米子市と同じく赤白黄色の3色が登場した。食事では柿よりも豆の方が人気なのだろうか。色は童謡「チューリップ」でも歌われる3色で、歌として共通する何かがあるのかもしれない。最後はにらめっこでおなじみのかけ声で、途中で種目が変わっているのも面白い。
▼番外編 県外でも柿の種が人気?
せっかくなので、山陰両県外から入社した同僚にも聞いてみた。
・「鉄砲撃ってバンバンバン、もう一つ撃ってバンバンバン」(北海道、20代)
山陰両県とは打って変わって物騒な単語が現れた。物事を決めるために6発も発砲する必要があるとは。狩猟文化が色濃く残る北国ならではの数え歌なのかもしれない。
また、社員によると北海道では歌の最初は「どちら」ではなく「どれにしようかな」で、三つ以上の選択肢を決める時に使うことがほとんどらしい。北海道で必須の手袋や帽子といった防寒具を選ぶ際によく使ったという。
・「あぶ、あぶ、あぶっぷっぷ、柿の種、ごはんつぶ、新聞紙 あぶ、あぶ、あぶっぷっぷ」(大分県、20代)
歌い出しの言葉だけは出雲市のあべべに少し似ているが、リズムを大幅に変えてきた。おなじみの柿の種も出るが、その後は初出の単語が続く。どことなくどれも生活に根付いた物である気はする。小学生の数え歌にも新聞紙が出てくるのは、新聞記者としてはうれしいところ。
・「柿の種、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10」(岡山市、20代)
岡山市では数字を数える初のパターン。いろいろな単語が出るよりもシンプルで分かりやすく、結論を最短で出すために最適化されているようにも感じる。柿の種の人気ぶりには驚くばかりだが、やはり県をまたぐと歌の傾向は大きく変わるようだ。

▼歌に出る言葉、どうやって決まる?
数え歌はなぜ地域によって大きく内容が変わるのだろうか。山陰両県各地に伝わるわらべ歌に詳しい、民話研究者の酒井董美さん(87)=松江市大正町=は「各地域の人々の生活に密着した話や言葉が、発想豊かな子どもたちによっていろいろな形に派生していると考えられる。民話やわらべ歌も同じ理屈だ」と推測する。
なるほど、そうなると鬼太郎やアイスクリーム、新聞紙といった言葉が出てくるのもうなずける。中でも柿の種が頻出する理由について、酒井さんは「柿は甘くておいしく、昔話のさるかに合戦にも出てくるなど昔の人々にとって大きな楽しみの一つだ」と指摘。昔からある歌の登場当初から歌詞に組み込まれ、そのまま現代まで伝わってきたのだろうか。
数え歌は各地域の特色を映す鏡とも言える。子どもの頃に口にしていた数え歌にどんな言葉があったか、あらためて思い出してみると面白そうだ。