イナゴの佃煮の実物=雲南市木次町里方
イナゴの佃煮の実物=雲南市木次町里方

 出雲市塩冶町の団体職員高田兼太さん(47)はイナゴ、蜂の子、蚕のサナギ、セミなど昆虫を食べる「昆虫食」を研究している。貴重なタンパク源や食糧危機の懸念などから国内外で昆虫食は注目されている。島根県奥出雲町では今もイナゴのつくだ煮が販売され、人気だという。高田さんは島根県内での昆虫食文化について研究を進めている。(雲南支局・山本泰平)

 大阪府東淀川区豊里出身の高田さんは、縁あって3年前、出雲市塩冶町に移住した。団体職員として勤務する傍ら、島根県内の昆虫食について研究を続けている。昨年夏には今までの研究をまとめ本を出版した。

著書を手に昆虫への愛を語る高田さん=雲南市木次町里方

 「昆虫は不思議がいっぱいで面白い」と、高田さんは少年のような瞳で話す。幼少期から生き物を愛し、中でも昆虫が一番好き。生き物係(小学校)や生物部(高校)を経て、大学では群集生態学を専攻した。

 「さまざまな昆虫が里山でなぜ共存できているのか」について博士課程後期まで研究した。関西の会社に就職後も昆虫への興味は衰えず、文化昆虫学と民族昆虫学の観点から「人と昆虫との関わり」について研究を続けてきた。島根に移住後は、県内の昆虫食文化に興味を持ち、独自に研究を進める。

 高田さんが昆虫を初めて食べたのは19歳のとき。林業のアルバイト先でキイロスズメバチの蜂の子をバター焼きにして食べた。「ものすごくクリーミーで濃厚、おいしかった」と懐かしむ。その後も長野県で蚕のサナギを食べたり、アシナガバチをバター焼きにしたりして食べた。

 県内の昆虫食研究は昨年11月、島根県奥出雲町亀嵩の道の駅「酒蔵奥出雲交流館」でイナゴのつくだ煮を発見したことをきっかけに開始した。「山陰は昆虫食に関する資料が少なく、昆虫食が販売されているとは思いも寄らなかった」と振り返る。

 昆虫料理研究家の知人らと意見を交わしながら研究を進め、現在、島根県の昆虫食文化に関する研究成果(第1弾)を執筆中。奥出雲周辺で「イナゴの佃煮」が食文化として残っている、もしくは最近まで食されていた可能性があると分析している。

 「今後は調査エリアや対象を拡大し、より詳細な情報を収集していく」と、まだまだ不明な点が多い昆虫食文化の研究に熱意を示した。「昆虫食をきっかけに、多くの人々が自然や生物の保全に関心を持ってくれれば」と期待し、今後も研究を続ける。

 意外にも、高田さんは3歳まで昆虫が苦手だったという。転機が訪れたのは、大阪府に住んでいた3歳のとき。昆虫を怖がる高田さんをみかねた父親が、高田さんを淀川の河川敷に連れて行き、手にコオロギを握らせた。「怖いか?」という父の問いかけに、「怖くない」と答えたという。以降、昆虫が大好きになり、今につながる。

「しじみの佃煮」の2倍以上 道の駅で人気の佃煮とは

 道の駅「奥出雲おろちループ」(島根県奥出雲町八川)では、2010年ごろから「イナゴの佃煮」を販売する。藤原紘子駅長(38)によると、年間約750個を売る人気商品で、月間売り上げが島根県の特産「しじみの佃煮」の2倍以上になることもあるという。

道の駅「奥出雲おろちループ」で売られている昆虫食=島根県奥出雲町八川

 男女問わず60~70代の固定ファンが多く、県外からイナゴを目的に道の駅を訪れる人もいる。駅長おすすめの食べ方は「アツアツのご飯の上にのせるだけ」で、甘辛の味付けがご飯と相性抜群だという。

 5月中旬、コオロギパウダーを使用したお菓子「チョコロギスキー」の販売を始めた。1個につきコオロギ5匹分のパウダーを使用したチョコクランチで、イナゴの佃煮より手軽に食べられる。
 藤原駅長は「イナゴの佃煮など、インパクトのある商品は田舎ならでは。今後も良い商品を探していく」と話した。

 

「イナゴの佃煮」記者も食べてみた

 道の駅「奥出雲おろちループ」の藤原駅長のおすすめの食べ方は「アツアツのご飯にのせるだけ」。

 つくだ煮のイナゴの体長は約4㌢で、長い脚もしっかり付いている。頭部には目や口をしっかりと確認できる。

イナゴの佃煮の実物=雲南市木次町里方

 とりあえず1匹ご飯の上に乗せてみる。真っ白でつやつやしたご飯が光を反射し、カラメル色に染まったイナゴが輝く。

 一日の仕事を終え、お腹が減っているはずだが、まだ脳はイナゴを食料として認識していないようだ。

 ご飯1杯(約120㌘)にイナゴ1匹では寂しいので、5匹追加した。6匹になると1匹1匹の印象は薄れ、ぱっと見には「普通の佃煮」と変わらない。

 記者の脳は単純なのか、お腹が空いてきた。

 いざ食べてみる。

 イナゴのサクサクポリポリとした食感と甘辛な味付けが、温かいご飯と絶妙にマッチしておいしい。初めて食べたはずだが、どこか懐かしさも感じる。

 脚と胴体を分けて、それぞれで食べてみた。

 親指大のご飯にイナゴの脚6本をのせ食べてみる。ポリポリと小気味よい歯ごたえを楽しめるが、味が十分に染みていないらしく物足りない。

 次に脚を外した頭と胴体を食べてみる。脚に比べると食感は物足りなく感じるが、味がしっかり染みていてご飯との相性は抜群だ。

 つまり、分けずに食べた方がよいようだ。

 食感のみを楽しみたい人は脚だけで食べるのをおすすめする。しかし、ありのままの姿の方がご飯は進むだろう。

 イナゴの脚が歯茎に刺さることもあるそうなので、よくかんで食べることをおすすめする。