政府は2022年度に見込まれる電力需給の逼迫(ひっぱく)に備えた対応策を決定した。節電要請に加え、大企業の電力使用制限や計画停電も視野に入れる。
経済社会を維持するために当面の対策は確実に実施しなければならないが、今回の政府の節電要請はもっと大きな構図の中でとらえたい。
「脱炭素化」やウクライナ危機によって、世界のエネルギー事情は一変した。石炭や石油などの化石燃料を世界中から自由に買い集めて使う時代にはもう戻らない。「脱炭素」と「脱ロシア」の両立という難題に挑むには抜本的な改革が必要だ。
再生可能エネルギーの拡大、国際情勢に対応した調達戦略の強化、省エネの徹底などに取り組みながらエネルギーと社会の関係を再考し、新たな在り方を模索すべきだ。
老朽化による休止や地震による被害で火力発電所の稼働が低下、原発の検査も長引いている。政府は休止中の発電所の稼働を電力会社に呼びかけるが、供給は綱渡りになる見通しだ。夏はまだ余裕があるものの、安心できる状況ではない。冬はもっと厳しい。
企業は工場の稼働、オフィスの空調などでいま一度、節電の余地がないのか点検してほしい。家庭での取り組みもおろそかにしてはならない。使っていない部屋の消灯など細かいことでも励行したい。人々の日常生活や企業活動を節電・省エネに誘導する仕組みが求められている。
電力は需給が一致しなければ大規模な停電につながる恐れがある。今回は供給不足に対応して需要を人為的に抑えるための措置を検討する。節電で十分な需要を抑制できない場合は、大口契約の企業が使える電力を一定水準以下に抑える「電気使用制限」を発令する。違反すれば罰金を科す強制力を伴う。
対象の企業は工場の稼働制限や、エレベーターの間引き運転を迫られ、社会・経済活動に大きな影響が及ぶ恐れもある。円滑な実施を目指し、官民ともに入念な準備を進めたい。
一方で供給過剰という問題もある。太陽光や風力などの再生可能エネルギーは天候に大きく左右され、需要以上に発電してしまうケースがある。放置すれば大規模停電につながるため、再エネ発電量を一時的に抑制する「出力制御」で対応している。
この電力を蓄えて不足するときに使用できれば、状況は改善するが、蓄電池の性能やコストの問題などがネックになっているという。政府はエネルギーの安定確保に全力を挙げることはもちろんだが、高性能の蓄電池の開発や普及、送電網の増設に向けた政策を一層強化しなければならない。
貴重な電力を効率的に使用できる仕組みは、経済成長や安全保障環境の改善など国力を左右する重要なインフラになる。
3月下旬に東京、東北電力管内に警報を出した際には、発令が直前だったため、企業の対応が間に合わないケースもあった。需要が想定通りに抑制できるかどうか危ぶまれ、大規模停電が起きる恐れもあった。
節電を呼びかける伝達方法では現在の「需給逼迫警報」に加え、新たに「注意報」を新設し、企業や家庭に従来より早めに対応を要請する。天候などにより、結果的に不要になることもあるかもしれないが、早期対応は危機管理の要諦だ。