核兵器の開発や製造、実験、使用、核使用の威嚇を禁じた核兵器禁止条約の初の締約国会議が21日からオーストリア・ウィーンで開かれる。

 核軍縮の停滞に不満を募らせたオーストリアやメキシコなどの非核保有国が推進し、昨年発効したこの条約は、人類が目指すべき核廃絶を制度化する画期的な国際法だ。批准国は60を超え、ドイツやノルウェーなど北大西洋条約機構(NATO)の一部加盟国やオーストラリアもオブザーバーとして出席する。

 しかし「唯一の戦争被爆国」である日本は代表団を送らない。岸田文雄首相はその理由を「核兵器国は1カ国もまだ条約に参加していない。日本としては唯一の同盟国である米国との信頼関係の下、現実的な核軍縮、不拡散の取り組みを進めるべきだ」と説明した。

 日本周辺の安全保障環境は悪化しており、国民の命と財産を守るために米国の提供する抑止力が必要なことは確かだ。ただ、そのことが日本のオブザーバー参加を妨げる要件にはならない。オブザーバー参加と日米同盟は必ずしも矛盾せず、整合性が取れるからだ。

 オブザーバーとして出席しても即座に署名を強制されるわけではなく、日米同盟にたちまち支障を来すことはない。現に、日本同様、米国の「核の傘」の下にあるNATO加盟の数カ国がオブザーバー参加する。

 岸田首相は、核抑止力を提供する米国との「信頼関係」も踏まえ不参加を決めたとしているが、かねて核軍縮に熱心なバイデン米大統領がオブザーバー参加する同盟国に露骨な圧力をかけた形跡は確認されていない。

 長い人類史において核攻撃を受けた国は日本だけだ。被爆体験を礎に、国民の大半が核禁止条約の精神を支持している。

 日本世論調査会が昨夏実施した全国郵送世論調査では、核禁止条約に日本が「参加するべきだ」と答えた人が71%、締約国会議にオブザーバーとして「出席するべきだ」としたのは85%だった。

 連立与党の公明党もオブザーバー参加を強く促しており、今会議には同党で核廃絶議論を主導してきた浜田昌良参院議員を現地に送っている。

 仮に、こうした国内事情を岸田首相が先月の日米首脳会談で丁寧に説明していたら、バイデン大統領はどう反応していただろうか。原爆を落としたのは米国だ。非核という被爆国の国是を体現する条約会議へのオブザーバー参加に、果たして大統領が「ノー」を正面から突き付けただろうか。

 「人間の細胞を遺伝子レベルで傷つける悪魔の兵器です。母親と胎児をも傷つける核兵器のある世界に人類の未来はありません」

 母親の胎内で被爆した原爆小頭症被爆者の兄を持ち、小頭症被爆者の支援組織「きのこ会」の会長を務める長岡義夫さん(73)は会議2日前、ウィーンと広島をオンラインでつないだ会合でこう世界に訴えた。

 核軍縮を「ライフワーク」と自負する首相はこの重い言葉をどう受け止めるのか。ましてやロシアが核のどう喝を繰り返す中、被爆国が出席しなくていいのか。8月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議には自ら出席したい首相が、オブザーバー参加への扉を閉ざすのは間違っている。今からでも遅くはない。日本政府は態度を転換し参加すべきである。