鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかり、殺人罪などで懲役10年が確定し服役した原口アヤ子さんの第4次再審請求で、鹿児島地裁は裁判のやり直しを認めない決定をした。死因は確定判決が認定した絞殺による窒息死ではなく、事故死とする弁護側の鑑定書などを「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらない」とした。

 逮捕から42年余り無実を訴え続ける原口さんは95歳。現在は体調を崩して入院中で再審請求は長女に引き継がれている。90年に満期出所し、2002年に地裁で、17年から地裁と高裁で再審開始が認められたが、いずれも検察の即時抗告、特別抗告を経て上級審で取り消された。

 今回の決定に弁護側は即時抗告する。先行きは不透明だ。ただ「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則は再審にも適用されるとした1975年の最高裁決定に照らし、過去3回も開始決定で確定判決を支える証拠にさまざまな疑問が投げかけられたにもかかわらず、いまだ再審に至らないことに釈然としない思いが残る。

 さらに検察は手持ち証拠の開示になかなか応じようとせず、開始決定にことごとく異議を申し立てるなど、再審請求の手続きを長期化させたとの批判も高まっている。法廷に全ての証拠をそろえ、迅速に再審の可否を判断するため、再審法制定に向け議論に本腰を入れることが求められる。

 大崎事件の確定判決は原口さんが元夫らと共謀し、タオルで首を絞め元夫の弟を殺害して遺棄したと認定。2002年3月に鹿児島地裁は自白した元夫らに知的障害があり、捜査官の強制や誘導があったことがうかがわれると再審開始を認めた。

 福岡高裁宮崎支部で覆されたが、17年6月に地裁が自白の信用性に疑問を呈し、18年3月には高裁支部が弁護側提出の法医学鑑定を基に「事故死の可能性」を指摘し、相次いで再審開始の判断を出した。しかし最高裁は19年6月、いずれの決定も取り消し、再審を認めない決定が確定した。

 再審請求で最高裁が地裁、高裁の決定を取り消すのは異例のことだ。元夫らの知的障害や供述の変遷に踏み込まずに「自白の信用性は相応に強固」と指摘。事件の見直しより法的安定性を優先したと批判も招いた。

 そして第4次請求申し立てから2年余り。鹿児島地裁は司法解剖の写真を基に救急医がまとめた鑑定書をはじめ弁護側提出の証拠について「確定判決の判断に動揺は生じない」と結論付けた。

 時の経過とともに関係者の記憶は薄れ、証拠は乏しくなっていく。大崎事件では首を絞めたとされるタオルは見つからず、物証はほぼない。DNA型鑑定のような強力な新証拠もない。そんな中で、弁護側が証拠開示を求めても裁判所は門前払いにしたり、裁判所が開示を勧告しても検察側は応じなかったりした。

 現在、再審に関する規定を置く刑事訴訟法に証拠開示の定めはない。このため、再審請求した側は裁判所の勧告などが頼りだが、勧告しても検察側が応じる義務はなく、開示を巡って弁護側と検察側が鋭く対立し長期化の要因になっている。

 冤罪(えんざい)被害者の救済と真相究明には証拠開示が不可欠だ。検察による抗告の制限なども検討し、刑訴法から切り離して再審法の整備を急ぎたい。