物価高騰や新型コロナウイルス対応が参院選の大きな争点となる中、各政党が公約や政策集に掲げる「選択的夫婦別姓制度」の論戦は低調だ。結婚を控える若者にとって身近な問題の一つ。取材した島根の学生からは、導入を求める声が多く聞かれた。入社2年目の記者が、別姓議論の現状や課題を探る。 (情報部・坂上晴香、Sデジ編集部・宍道香穂)
※選択的夫婦別姓 有識者はこう考える
※各党の公約は?
「私たちが成人した時、自由に選択できるようになってほしい」。今年3月、京都府宇治市内の女子高生4人が選択的夫婦別姓制度導入を求める意見書を国に提出するよう宇治市議会に請願した。請願は採択され、意見書も可決された。
このニュースを知り、記者が訪れたのは島根大(松江市西川津町)。学生はこの問題をどう捉えているのだろう。
教育学部4年の岡野谷(おかのや)奈々子さん(22)は「働く女性が増え、ニーズは高まっている」。同部1年の橋本紗也加さん(18)も「個性を大事にする制度が良い」と賛同する。
総合理工学部3年の庄司一晟さん(20)は「嫁として夫の家に入るという概念は昔のもの。それぞれのアイデンティティーが大切にされるべきだ」と、時代に合った制度を求める。
法文学部1年の山崎龍さん(18)は「子どもの名前などの問題があり、家族は同じ姓である方が良い」と話した。
このほか学生計40人に話を聞くと、制度導入に肯定的な意見が多かった。アンケートの詳細
実際に、改姓に納得がいかず、結婚まで10年を要した島根県東部の女性(41)にも話を聞いた。
姉妹の姉で、幼少期から周囲に「家の跡取りだ」と言われて育った。同じ立場の夫が譲歩してくれようとした時、後ろめたさを感じて、夫の姓を選んだ。
職場では旧姓で過ごすが、名字が二つあることに違和感があるという。病院などで戸籍上の名前を呼ばれると、自分ではない気がするほどだ。
島根は「家の後継ぎ」を重視する保守的な人が多く、同様に結婚に苦しむ人がおり、「名字に固執すれば、さらなる少子化につながるのでは」と話す。
女性はこのまま夫婦別姓が認められなければ、子どもの手が離れた段階で離婚し、事実婚にしようと考えている、という。
内閣府の国民意識調査では、積極的に結婚を望んでいない20~30代独身女性のうち、25・6%が理由の一つに「姓が変わるのが嫌・面倒だから」を挙げた。
2010年以降、県内19市町村のうち安来、松江、浜田、益田の4市と津和野、吉賀の2町の議会で、夫婦別姓に関する陳情や要望、意見書が出されたが、いずれも制度導入に反対する意思が示された。江津市は10年、法制化に反対する意見書の提出を求める陳情を不採択としており、県内では珍しい判断だ。
夫婦に同姓を強いる国は日本以外にはない。声を届けるには、政治に参加するのが一歩になる。参院選をその契機にしたい。
■旧姓の使用拡大の動きも
戸籍上の姓は同一とした上で、旧姓の通称使用を広く認める形で対応する考えもある。内閣府の2021年度世論調査は、「現在の制度を維持した上で旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」との回答が42・2%を占めた。
2001年に、各省庁の人事担当課長会議の申し合わせで、国家公務員の旧姓使用が可能となった。民間の企業や組織も追随し、旧姓を通称として使用できるケースが増えている。
運転免許証、個人番号カード、旅券などには旧姓の併記が認められているが、旅券に二つの名字が記載されたことが混乱を招き、スムーズに出入国ができない場合もある。納税、年金受給、国家資格取得といった公的手続きは戸籍上の姓でなければできない。
企業や組織にとっては、戸籍上の名前と旧姓のひも付けや行政手続きでの名前の使い分けなど、管理に手間がかかる。
旧姓の通称使用が法整備された場合、現行の不利益や手間は解消されるのか。
原市(まち)法律事務所(出雲市塩冶町)の原市弁護士は「どこまで、どう制度化すれば不都合がないかが課題」とした上で「別姓という選択肢を設けなくていいという話にはならない」と指摘する。何より、生まれながらの名字でいたいという根本的な願いはかなわない。島根県内の学生40人アンケートの結果はこちらから