3度目の緊急事態宣言発令が決まり、新型コロナウイルス禍の終わりが見えない中、病床の親族の最期に立ち会えない状況が続いている。感染が急拡大する大阪府在住で出雲市出身の40代男性は今春、島根県内の病院に拒まれ母親の最期に立ち会えなかった。院内感染のリスク回避は理解するが、PCR検査を受けて陰性でも許可できないとの説明に「過敏すぎるのではないか」と嘆く。県内の医療関係者は病院側の判断に理解を示す声が多いが「せめて画面越しで」と工夫する病院も出てきた。 (多賀芳文)
男性の母親は長年の闘病の末、今春、県内の緩和ケア病棟に入った。一時退院ができない容体となり「あと数日しかもたない」との知らせが男性に届いた。面会を試みたが、県内の親族から「(母が)病院にいる間は会えない」と告げられた。
納得できず、病院に直談判すると、PCR検査を受けて陰性で、体調が万全だとしても、大阪から帰郷する場合は許可できない旨の説明を受けた。受け答えから「県内はクリーンで県外は汚染」という印象を持たれていると感じたという。
「母をその場でみとれないもどかしさ、やるせなさは筆舌に尽くしがたかった。コロナ禍はまだまだ続く。私と同じような悔しさを味わう人が一人でも減ってほしい」と願う。
一方、医療関係者も苦悩している。新型コロナ患者を受け入れる感染症指定医療機関の松江赤十字病院(松江市)は、院内感染防止のため通常面会も「当面禁止」で、入退院の付き添いは原則1人と、ただでさえ厳重な対応をしている。
県外の患者家族がみとりを希望した際の対応マニュアルはなく、担当者は「主治医が状況に応じて判断することになる。難しい判断ではある」と話す。
「家族の気持ちは十分理解できるが、判断を迫られれば同様の対応になるかもしれない」。言葉を絞り出すのは大田市立病院の島林大吾事務部長。PCR検査は検査時期に判定が左右される例があるとして「完全ではない」と説く。重症化リスクが高い患者がいる院内への受け入れは、警戒せざるを得ない。それでも「できる限りのことはしたい」とタブレット端末を導入。オンライン上で面会できる仕組みを用意した。
県医師会の森本紀彦会長は、PCR検査が昨年に比べて受けやすくなった現状を踏まえ「1度ではなく、日を分けて頻繁に検査をすることで、感染の可能性をゼロに近づける方法もある」と述べ、模索すべき課題だとする。
国民の約7割が病院で亡くなる現実とコロナ禍の中、いかに死と向き合う環境をつくるのか、難題が突きつけられている。