人の接触機会が増える本格的夏休みシーズンを迎える中、新型コロナウイルスの流行「第7波」が全国で拡大し、この2年半の国内の累計感染者数は1千万人を超えた。

 しかし岸田文雄首相は、まだ重症者・死者数が少なく、医療機関の病床使用率も低いとして「今は感染症対策と経済社会活動の両立が大事だ」と表明。まん延防止等重点措置などの行動制限は求めない方針だ。政府として最悪の事態を想定した病床、検査体制の確保へ万全を期してほしい。

 過去最大規模だった冬からの第6波を超える予測がある現状に、私たちはどう行動するべきか。これ以上の感染拡大を止めるためにも、一人一人がワクチン接種や検査を活用しつつ、行楽地でも3密を避け、少人数で食事するなど「自己防衛」の夏休みとしたい。

 7月に入り急拡大した第7波は、1日当たりの新規感染者が10万人程度と2月の第6波ピーク時と同水準に到達。東京都に助言する専門家は、1週間後には第6波を上回り「これまでに経験したことのない、爆発的な感染状況になる」と危機感を示す。一方、第6波ピーク時に約1500人に達した重症者は、まだ100人程度にとどまる。

 これは、感染が広がりやすい一方、重症化はしにくいオミクロン株の派生型「BA・5」の特性に起因する。故に、新規感染者数の数字に一喜一憂せず、重症者・死者数や病床使用率を重視し医療提供体制の逼迫(ひっぱく)を未然に防ぐのを最優先するというのが政府の立場だ。それに沿ったワクチン4回目接種の対象拡大などは妥当な方策と言える。

 だが米ファイザー製ワクチンの3回目を打っても2週間後のBA・5に対する発症予防効果は50%に満たないとの分析もある。10~30代の若者を中心に感染が急増しており、政府はまだ3~5割にとどまる若い世代の3回目接種を推進するが、効果には限界もあろう。

 今回表明した主要駅、空港への無料検査拠点設置など、感染者を早期発見していく攻めの取り組みも一層充実させたい。

 政府に助言する専門家らの分科会は、BA・5への置き換わりにより、新規感染者が急増して高齢者を中心に入院患者や重症者、死者が増えると指摘。その上で「国・自治体による効率的な医療機能の確保」など五つの対策を提言した。目新しくはないが、愚直に基本動作を励行すべきだとの内容は妥当だ。

 一方で分科会は、得られる効果に比べて社会経済的な損失が大きいとして行動制限に否定的見解を示した。背景には学校や保育所、職場で感染し家庭で広がる感染ルートが今や主流で、飲食店やイベントへの規制効果が薄まっている現状がある。既に物価高などで国民生活は疲弊しており、根拠が薄い行動制限であれば避けるべきだろう。

 ただ、これに関し分科会は「コロナを一疾病として日常的な医療提供体制の中に位置付ける検討を始める必要がある」とも提言した。コロナの感染症法上の位置付けを、危険度が2番目に高い「2類相当」から、季節性インフルエンザ相当の「5類」へ引き下げる準備を指すと思われるが、これはいかがだろうか。

 オミクロン株の死亡率、肺炎発症率は季節性インフルエンザより高いとされる。「コロナとの共存」を探る意味はあるが、危機の今は時期尚早だ。