英国のジョンソン首相が辞任を表明した。新型コロナウイルス対策の規制下に開催されたパーティー問題など不祥事を巡り、閣僚ら多数が抗議のため辞任、政権内部から自壊した形だ。国家指導者としての倫理が欠如した報いであり、引責辞任以外に道はなかった。
ジョンソン氏の後継首相を選ぶ与党保守党党首選が本格化したが、長期化するロシアのウクライナ侵攻や、物価高騰など英国内外に課題が山積する。新首相は何より指導者への国民的信頼を取り戻してほしい。
「ジョンソン降ろし」の引き金となったパーティー問題が浮上したのは昨年12月である。コロナ禍で国民に厳しい行動制限を課しておきながら、首相官邸で酒食を伴うパーティーが何度も開かれたことが連日報道された。
ジョンソン氏は当初、パーティーの開催を否定し、その後も「職務上の会合」「(規制の)指針は守られていた」と強弁した。結局今年1月に、自らも参加したことを認めて謝罪。ウソと言い逃れの連続に英国民はあきれ果てた。4月には、警察から規則違反のパーティーへの参加で罰金を科されている。
厳しい規制で生活苦に陥る国民も多い中、指導者として備えるべき想像力や倫理観、誠実さを全く欠いていたと言わざるを得ない。
さらに、ジョンソン氏が任命した保守党の院内副幹事長の性的スキャンダルが発覚した際も、当初は「素行に問題があるとは知らなかった」(首相官邸)と発表。後に撤回するなど、ジョンソン氏の言動は迷走を続けた。保守党は今年5月の統一地方選、6月の下院補欠選挙で続けて敗北。既に民心は政権から離れていたと言える。
ジョンソン氏は2019年7月、英国の欧州連合(EU)離脱を巡り議会が大混乱に陥ったのを機に、メイ前首相から政権を引き継いだ。
同年12月に下院を解散し、総選挙では「離脱を成し遂げる」とのスローガンを掲げて単独過半数の議席を獲得。20年1月にはEU離脱を達成し「突破力」を評価された。
だが、選挙期間中からジョンソン氏の主張には虚偽や誇張が指摘されていた。離脱後は日本を含むアジア太平洋諸国に接近し、環太平洋連携協定(TPP)に加入申請するなどEUに頼らない「グローバル・ブリテン」を掲げたが、いまだ具体的な成果に乏しい。
対EUでは離脱後、北アイルランドの物流規制で問題が生じた際に離脱協定の再交渉を要求、場当たり的な振る舞いを各国から批判された。
ロシアのウクライナ侵攻後には、主要国首脳として真っ先に首都キーウ(キエフ)を訪問するなど行動は華々しかったが、一部では不祥事から国民の関心をそらすためのスタンドプレーとささやかれた。
ただ、ジョンソン首相が、ウクライナ問題で欧米諸国における対ロシア最強硬派の一人だったことは確かだ。チャーチル元英首相への私淑が知られており、第2次大戦中の元首相の姿を自身と重ねていた節もある。
英国は米国と並ぶウクライナへの最大の武器供与国であり、その政策は戦況に影響する。保守党の新党首選びは始まったばかりで、英国の今後の対ロシア、対ウクライナ政策には不透明感が漂うが、日米欧各国は結束を再確認すべきだろう。