夏と言えば、一瞬にして暑さを忘れさせてくれる怪談の季節。有名な怪談は多いが、山陰両県を舞台にした怪談も存在する。山陰発祥の怖い話や不思議な話に詳しい、カフェ経営の古川創一郎さん(46)に、お勧めの怪談を2回に分けて紹介してもらった。(Sデジ編集部・吉野仁士)
※怖い話が苦手な方はご注意を
古川さんは松江市袖師町のカフェ「CAPPARY(キャッパリー)」の店主。店を会場に映画関係者を招いた講演会やボードゲームの交流会といったイベントを定期的に開く。昔から怖い話が好きで、客から聞いた話を知り合いの作家に紹介する自称「お化け問屋」としても活動し、作家と共同で怪談の本を2冊出版している。

▼神社の奉納品を持ち帰ると
まずは山陰にある有名な稲荷神社にまつわる話。
この神社の奥には、稲荷神の使いとされるキツネの人形がたくさん並べられている。ある日、地元の小学生のさとるくん(仮名)が友だちと神社に遊びに行った時、とてもきれいな、手のひらサイズのキツネの人形を見つけた。気に入ったさとるくんは人形をこっそり自宅に持ち帰り、自分の勉強机の隅に置いて眺めていた。

夜になり、さとるくんのお父さんが帰ってきた。どうやら仕事仲間と飲み会があったようで、ほろ酔い気分のようだ。しかし、玄関前で立ち止まったまま、一向に家の中に入ってこない。お母さんが玄関を出て「あなた、何しているの。早く入りなさいよ」と言うと、お父さんはぼーっとした様子で「いや、ここはお社だけん、わしみたいなもんは入られんわ」と答えるだけで、動こうとしない。
家族たちも何事かと騒ぎ始めた時、さとるくんのおばあちゃんが机の上にあった人形を見つけ「あんた、これはどうしたもんだ」と、さとるくんを問い詰めた。さとるくんが正直に事情を話すとおばあちゃんは「そんなことしたらいけんわね。今すぐ返しに行ってきなさい」と言い、さとるくんは真っ暗な中、兄と姉と3人で人形を返しに行った。

さとるくんは人形を元あった場所に置き、手を合わせて「ごめんなさい。ものすごく失礼なことをしました。もう絶対にしませんので許してください」と謝った。家に帰ると...