東京五輪の開幕まで3カ月を切ったのに機運が盛り上がらない。コロナ禍のせいで、世論調査では中止や再延期を望む声が多いくらいだ。選手や関係者には悪いが、3度目の緊急事態宣言が発令され、感染拡大への不安はさらに強まっている▼しかし不思議なことに、これまで開催の可否が真正面から論議されたとの報道はない。大会の開催自体は国際オリンピック委員会(IOC)が決めることだが、国民の命や健康を守るのは日本政府の役目だ。仮に「中止」を言い出せば、どんな不利益があるのか。また予定通り開催するのなら、さまざまな不安材料にどう対応をするのかを具体的に示さないと、もやもやがいつまでも続く▼五輪の開催はナショナリズムを高めるといわれる。今秋には衆院議員の任期が来る。開幕してテレビや新聞がメダルラッシュを伝えるようになれば世の中の空気は変わるとの読みがあるのだろうか。コロナ対策と同様に小出しの対応で引っ張っているように映る▼前回1964年の東京大会は1ドル=360円の時代。開催に合わせ東海道新幹線や高速道路が整備され、家庭でも海外旅行の自由化やテレビ時代が本格化するなど、多くの国民の夢につながった▼だが今回は「二匹目のどじょう」は見えない。大会後に「やるだけのことはやった」「やむを得なかった」とならないように、いま一度蒸し返した論議があっていい。(己)