ロシアのウクライナ侵攻に終わりが見えない中、日本は戦後77年となる「終戦の日」を迎えた。先の大戦の犠牲者を悼みつつ、今も戦火にさらされている人々の苦難に思いをはせよう。同時に憲法がうたう平和主義の尊さを心に刻み、私たちの自由と権利を守るため、憲法が一方で求める「不断の努力」を誓う一日にしたい。

 オランダ・ハーグで1999年5月、100カ国以上の非政府組織(NGO)による国際平和市民会議が開かれた。源流となった会議は1899年に同じハーグで催され、紛争の仲裁機関設立などの成果を生んでいる。

 それから100年を経た会議が改めて注目されたのは、平和構築に向けた提言で「日本の憲法9条を手本にした戦争禁止決議を各国議会が採択する」よう訴えたからだ。北大西洋条約機構(NATO)軍によるユーゴスラビア空爆が続いているさなかであった。

 作家の故井上ひさしさんは「日本国憲法が世界の目標」になったと評価。悲惨な太平洋戦争を経験したが故に「戦争放棄をきちっと憲法で決めているというのは、日本人が課せられた使命なんです」と記した(エッセー・講演集「憲法指南」)。

 同会議からほぼ四半世紀。憲法9条の精神が広がるどころか、ウクライナでは戦争による死傷者が後を絶たない。台湾問題を巡って米中の偶発的な軍事衝突の懸念が高まり、北朝鮮は核・ミサイル開発を進める。

 険しさを増す安全保障環境を理由に、政府、自民党は予算の大幅増による防衛力強化や、その一環で「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有を検討。加えて岸田文雄首相(自民党総裁)は、憲法改正が持論だった安倍晋三元首相の不慮の死を受け、早期の改憲発議に意欲を示す。

 自民党改憲案は「必要な自衛措置を取るための実力組織」として、9条に自衛隊を明記することが柱だ。「自衛隊違憲論」解消のためだという。

 だが、こうした対応が周辺国にどう受け止められるかには心しなければなるまい。日本への警戒感が強まり、軍備増強の口実を与える恐れがあるからだ。国際社会の少なくとも市民レベルでは「世界の目標」とされた9条の輝きを損なうことにもなりかねない。

 憲法12条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と規定する。この条文を念頭に、護憲派で知られ、学生時代に五・一五事件や二・二六事件が起きた故宮沢喜一元首相は著作の中でこう説いた。

 「自由はある日突然なくなるものではない。目立たない形で徐々に蝕(むしば)まれ、気がついたときにはすべてが失われているような過程をたどります」

 「われわれは憲法の言うように『不断の努力』をもって自由を大切にし、日本社会の活力を守ろうではありませんか」

 12条は後段で自由も権利も「公共の福祉のためにこれを利用する」と枠をはめているが、「公共の福祉」を盾にさまざまな制約を課そうとするのが権力側の常でもある。

 平和あっての自由と権利が侵されないように「不断の努力」を重ねる。身近なところでは戦争体験の伝承や、選挙権行使による平和希求の意思表示も該当しよう。武力に頼らず何ができるか。一人一人が考えたい。