政府が外国人技能実習制度の見直しを表明した。日本の建設業や製造業、農業などに外国人を受け入れ、習得した技術や知識を母国の発展に生かしてもらうと「国際貢献」を掲げ、1993年4月にスタートした。だが受け入れ先の事業者によっては実習生が「安い労働力」として酷使され、長時間労働や賃金不払いなどが後を絶たない。
実習生は現地で借金をして「送り出し機関」と呼ばれる派遣会社やブローカーなどに数十万円を支払い、来日する人が多い。このため労働環境が劣悪であっても、声を上げにくい。解雇され、帰国させられては、元も子もないからだ。技能習得の建前から、転職の自由は認められていない。
また最長5年働けるが、家族の呼び寄せはできず、国内外で「人権侵害」の声がやまない。昨年は受け入れ先から7千人余りが失踪した。先月には、米国務省が世界各国の人身売買に関する報告書を発表。実習生が「強制労働」させられているとし、人身売買に関与した悪質な業者や雇用主の責任を日本政府が追及していないと批判した。
少子高齢化が進み、日本社会はさまざまな分野で外国人労働者に依存している。実習制度に小手先の修正を施すのではなく、廃止も含め抜本的な見直しを行う必要がある。人権を守り、転職や家族帯同、定住をしやすくするなど、共生を見据えた仕組みにすべきだ。
政府は長年、大学教授やIT技術者など専門的知識・技術を持つ外国人を積極的に受け入れてきた。一方、建設作業員など単純労働者については日本人の仕事が奪われる恐れもあって原則として受け入れておらず、表向きは就労を目的としない技能実習生や留学生のアルバイトなどが単純労働の担い手になっている。
昨年末時点で実習生は27万6千人余り。国籍別ではベトナムが最多で6割近くを占め、中国、インドネシアと続く。この年、厚生労働省は実習生が働く9036事業所を調査。7割以上の6556事業所で、資格なしでフォークリフトを運転させたり、月100時間を超える残業をさせたりした法令違反があった。
福島県の建設会社で鉄筋や型枠の技能を学ぶと言われていたベトナム人男性3人が、詳しい説明なしに東京電力福島第1原発事故後の除染作業をさせられた例もある。3人は2019年9月に損害賠償を求め提訴。翌年、会社側と和解した。
政府は受け入れ先の監督・指導を強化するなどしてきたが、目立った改善は見られない。そんな中、実習制度の問題を十分検証しないまま、19年4月には外国人労働者の受け入れを拡大する特定技能制度を導入した。
背景には深刻な人手不足に悩む経済界からの要請があった。特定技能は一定の技能が必要な「1号」と、熟練技能を要する業務に就く「2号」があり、報酬は日本人と同等以上。1号は在留期間が通算5年で、家族を帯同できないが、転職はできる。2号は家族帯同が認められ、在留期間の更新も可能だ。
実習生は3年以上の経験があれば1号に移れる。実習制度を技能制度に一本化する案もあり、政府は年内にも有識者会議を設け議論を始める。外国人を抜きにして日本社会は回らないという現実を直視し、外国人を社会の一員として、きちんと遇する道を探りたい。