鳥取県湯梨浜町に魚料理の自動販売機が設置され、人気になっているという。スイーツやラーメンなど、さまざまな商品の自販機を目にするようになったが魚料理の自販機は初めて聞いた。どんな料理が販売されているのか訪ねてみた。(Sデジ編集部・宍道香穂)
▷サバやサケ、シジミなど9種
自販機を設置したのは鳥取県湯梨浜町旭の鮮魚店「河本魚店」。東郷池の南岸、中国庭園「燕趙園」のほど近くにある。店舗2階は仕出し屋で、店主の河本定幸(さだゆき)さん(59)が魚料理などを提供していたが、新型コロナウイルス禍の影響で売り上げが伸び悩み、自販機を設置することにしたという。

自販機は店の向かいの駐車場内にある。全国的に人気の冷凍自販機「ど冷(ひ)えもん」で煮魚や焼き魚、しじみなど9種類の商品を冷凍した状態で販売している。自販機は高さ約1・8メートル、幅約1・2メートル、奥行き1メートル。タッチパネルを操作して購入する。
誰もが気軽に購入できるよう、商品はいずれも1~2人前にしている。魚の種類は季節によって変える予定で、現在はノドグロの塩焼き(280円)やサケの塩焼き(350円)、近くの東郷湖でとれるシジミ(300グラム、500円)などを並べている。一番人気は煮魚の定番、サバの味噌煮(250円)。今の時期はサバをカレー風味に味付けした「焼き魚 さばカレー味」(330円)も人気だという。購入後は電子レンジで加熱するか、自然解凍させて食べてもらう。

さっそく、一番人気のサバの味噌煮を買ってみた。商品番号を確認し、パネルをタッチして硬貨を投入する。数秒後、取り出し口にコロンと商品が出てきた。取り出すと、容器に入り袋詰めされた味噌煮が出てきた。袋には「白い容器は電子レンジ対応です」と記された紙が入っている。容器ごと加熱して食べられるのは手間がかからず、ありがたい。
外袋やラップをはがすと、白色の耐熱容器に入ったサバの味噌煮が出てきた。加熱時間は電子レンジの種類やワット数によって異なるため、様子を見ながら加熱する。筆者は500ワットで約3分加熱し、食べてみた。味噌のいい香りがふんわりと漂うサバは、しっかりと味がしみ込んでいて、うまみもぎゅっと詰まっている。
食生活に気を付けなければと思いながら、つい食事をおろそかにしてしまう毎日。特に魚は調理に手間と時間がかかってしまいそうで、食べる機会がほとんどない。1~2人前をパッと購入できて、手軽においしい魚料理を食べられる魚の自動販売機は多くの人に重宝されそうだと思った。耐熱容器は加熱した後にそのまま皿として使えるため、箸さえ準備すればすぐに食べられる。

▷照り焼きチキンやアイスクリームも
自販機の商品を眺めていると、魚屋では見慣れない「チキン照り焼き」「アイスクリーム」の文字があった。新型コロナ禍の影響を受け、持ち帰り用の海鮮丼を販売し始めた頃に「うちの子どもは魚が食べられなくて…」との客の声に応え、鶏もも肉の照り焼き丼を売り始めたという。照り焼き丼が好評だったため、自販機でもチキンの照り焼き(330円)を販売し始めた。国産の鶏もも肉をしょうゆに漬け、オーブンで焼いたチキンは人気で、河本さんは「自販機でチキンだけ買っていくお客さんもいます」と笑った。
アイスクリームは近隣の農家3軒と共同で取り組むプロジェクトで作った商品という。地元産の果物や野菜を使ったアイスを計16種類開発していて、自販機では河本さんが考案した「シジミみそ汁アイス」と「梨アイス」を2個セット、600円で販売している。
▷温めてすぐ食べられる料理を販売
自販機は河本さんが4月末に設置し、5月から稼働させた。新型コロナ禍で飲食店の売り上げが落ち込む中、非対面、非接触で商品を買ってもらえる自動販売機に着目したという。
河本さんは「魚料理の自販機を見たことはあったが、漬けや干物など購入してから自分で調理しなければならない商品が多かった。自販機を設置するなら、焼いたり煮たりせずにすぐ食べられるものを販売したいと思った」と話した。

「河本魚店」店主の河本定幸(さだゆき)さん
自販機で売っている魚料理はすべて河本さんが調理後、冷蔵してからパックに詰め、冷凍している。シジミは砂抜きをしているため、お湯にそのまま入れてシジミ汁を作ることができる。手軽なのは料理する側にとっては助かる。
当初は自販機の呼び名を「魚の自動販売機」としていたが、家族から「長い」と指摘され「魚販機(ぎょはんき)」と名付けた。

設置したばかりの頃はどんな商品を並べれば良いのか分からず、河本さん自身がおいしいと思うオキギスの煮つけなどを並べていたが、思うように売れなかったという。河本さんは「お客さんに意見を聞くと、魚の名前になじみがないと買いづらいと言われた。サバやサケなど、よく知られている魚の料理を置くようにしたら売れ行きが良くなった」と、現在のラインアップに至った経緯を話した。
1パック1~2人前の量がちょうど良く、好きな時に温めて食べられる手軽さから、近隣住民を中心に人気を集めている。食事の一品や酒のつまみにちょうど良く、毎日買いに来る人や、いくつかまとめ買いしていく人も多い。近所へのちょっとした贈り物や、離れて暮らす子どもへのプレゼントとしても重宝されているという。河本さんは今後、商品の種類や価格帯など、なるべく客の要望に応えたいとし「白イカの造りや照り焼きなど、時期ものも販売したい」と意欲を見せた。