静岡県熱海市で大規模土石流災害が昨年7月に起きたことを受け国は「盛り土規制法」を制定、来年春に施行する。工事現場から出た土砂の処理を監視する方策も導入される。建設残土の処分などに伴う危険な盛り土を止める手だては強化された。自治体が積極的に活用するかどうかが実効性の鍵となる。
熱海では、県や市が盛り土の存在を知りながら最悪の事態を想定せず「断固たる措置を取らなかった」ことが災害の要因とされる。これを繰り返さないためには、盛り土の危険性を行政が調査し、警察と連携しながら事業者に厳しく是正を迫らなければならない。
規制法は、渓流の上流地域も含め人家などに被害を及ぼす可能性のある場所を規制区域として知事などが指定、盛り土を許可の対象とする。土地所有者の同意や周辺住民への事前周知と、災害防止の観点から安全基準を守ることを義務付けた。
指定された規制区域が狭いと、それ以外の区域に盛り土が集中する懸念もある。できるだけ規制区域を広く設定できるようにすることが重要だ。
罰則は行為者が最大で懲役3年、罰金1千万円、法人は3億円と重い。1998年度に1197件把握された産業廃棄物の不法投棄が、罰則の強化などから2020年度には139件に減少した。この例からも危険な盛り土を減らす規制法の効果は期待できる。
だが盛り土の届けが出されない恐れもある。許可を受けるには手間がかかり、工事中、完了時の検査もある。公共事業や大規模事業を扱う事業者は届け出るが、処理費用を低く抑えたい中小の民間事業者は申請しない可能性もある。不法盛り土が続くことを前提に実効性ある監視体制を整えることが必要だ。
それには住民の協力が欠かせない。許可を受けた盛り土の現場では、標識の表示が義務付けられる。標識がない現場、崩れそうな現場を見かけた場合は、ためらわず通報してほしい。
不法盛り土への対処方策ガイドラインを国土交通省が検討している。行政も慣れていないだけに、発見後の対応や現状把握の方法、危険への応急的な対応、監督処分の判断基準などを分かりやすく示してほしい。
静岡県は条例を制定して盛り土の独自規制を始めた。「盛土対策課」を置いて「盛り土110番」を開設、監視機動班が通報に基づいて現場確認、巡回監視している。こんな対応も参考になるだろう。
現在ある盛り土の監視も怠ってはならない。都道府県が政府の通知を受け今年3月時点で、約3万6千カ所を目視で点検した。うち約1100カ所に必要な災害防止措置が確認できない、廃棄物の投棄が確認されたなどの問題があったという。
地球温暖化で一度に降る雨は増えている。土砂災害が起きてからでは遅い。