国内外で高く評価される島根ゆかりの写真家・奈良原一高氏(1931~2020年)のコレクション展が2日、島根県立美術館(松江市袖師町)で始まる。「文化の薫りがあった」と奈良原氏が愛した地にある美術館だとして遺族から寄贈された作品を初めて披露する。遺族は、奈良原氏が青春期を過ごした島根の写真文化の発展に貢献したいと願う。
奈良原氏は松江高校卒。1956年の初個展「人間の土地」以降、日本だけでなく、欧州や米国を拠点に国際的な写真家として活躍した。
寄贈された作品は305点。ヨーロッパ滞在中、街角の人々のさりげない姿や歴史的建造物までを活写し各賞に輝いた「ヨーロッパ・静止した時間」(1967年)や、自身の病床体験を基にレントゲンを用いた独創的な90年以降の写真群など、奈良原氏の活動初期から晩年に至る代表作を網羅する。
コレクション展はこのうち約110点を披露。「ヨーロッパ・静止した時間」のほか、海外経験を基に日本の伝統文化を再考し、冬景色の松江城などを撮影した「ジャパネスク」(1970年)という活躍の場を広げた頃の主要作を厳選した。
寄贈を巡っては、2020年1月に奈良原氏が亡くなってから、おいで著作権を管理する奈良原一高アーカイブズの新美虎夫代表(77)ら遺族が県立美術館に申し入れた。
作品は全国の美術館や大学に寄贈したものの、県立美術館への寄贈数は突出しており、新美代表は「奈良原氏にとって愛着があった土地の美術館で、写真文化の発展に寄与したい」と強調した。
夫人の恵子さん(90)は奈良原氏が生前、「松江には文化の薫りがあった」とたびたび水の都を懐かしんでいたと述懐。城下町の歴史的景観が残り、戦後まもなく音楽会が催されるなど青春期を過ごした松江が、創作活動のルーツの一つだとした。
展示を担当する同館の蔦谷典子主任学芸員は「どれも奈良原氏が大切に保管していたもので、写真史上でも重要な作品群を堪能してほしい」とする。
11月28日まで。入場料は一般300円、大学生200円、高校生以下無料。 (佐貫公哉)