4年前のきょうのこと。がんで闘病中だった俳優の樹木希林さんが病室の窓の外に向かい、涙をこらえて繰り返し語りかけていたという。「死なないで、ね…どうか、生きてください…」▼娘の内田也哉子さんが理由を問うと「今日は、学校に行けない子どもたちが大勢、自殺してしまう日なの」「もったいない、あまりに命がもったいない…」。先月、新書化された希林さん親子の共著『9月1日 母からのバトン』の前書きで也哉子さんが回想している▼内閣府が2学期初日を迎える9月1日に子どもの自殺が多いというデータを発表したのが2015年7月。翌月、登校拒否・不登校を考える全国ネットワークのトークセッションに招かれた希林さんは、こんなメッセージを子どもたちに送っていた。「9月1日に『嫌だなあ』と思ったら、自殺するよりはもうちょっと待って、世の中を見ててほしいのね。必要のない人なんていないんだから」▼自身も子どもの頃に自閉症だったが、父親がそんな姿を受け止め放任してくれたことで救われ、やがて役者の道へ進んだ。世間の当たり前を押し付けるのではなく、子どもの中の当たり前を尊重することも親の役目だろう▼「死なないで」という冒頭の語りかけの2週間後、希林さんは75歳の生涯を閉じた。大人だけでなく、子どもたちも生きづらい時代だからこそ、その〝遺言〟を忘れないでいたい。(健)