「滅び」や「はかなさ」をテーマにした本物の人間と見まがう人形を、宍道高校通信制3年の野﨑千愛季(ちあき)さん(17)=松江市西川津町=が制作した。肌の質感や筋肉の盛り上がりを精巧に表現し、着物や鎧(よろい)も全て手作り。高さ約70センチ、12体の作品が醸し出す迫力が、見る者を圧倒する。 (白築昂)
野﨑さんが「一番大切にしているのは魂を込めること」と語るように、一つ一つの人形に生気や息づかいまで宿る。12体で構成したのは「ほたるさま」という架空の村の守り神を軸に、死者がよみがえる儀式の様子を表した三つの場面で「武士」「差し出される娘」「お面を売るおばあさん」などが登場。「聞いたことがある昔話を参考にしながら、滅びやはかなさ、この世とあの世という世界観を表現した」と意図を話す。
人形の顔や胴体は石粉粘土と樹脂粘土で造形。うち2体は、関節を自在に動かすことができる「球体関節人形」で、インターネットで調べて一から作った。頬骨のえらの張り具合や口元の筋肉の付き方などは三面鏡で自分の顔を眺め、写真で研究して肉付けし、目や歯も粘土で作った。
衣装は放送中のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」や文献を参考に自作。シーツや麻布を染め、鎧もホームセンターや百円均一の店で買いそろえた材料を元に一つ一つ縫い合わせた。八重垣神社(松江市)で巫女(みこ)のアルバイトをしながら、目にする物も参考にした。
幼い頃から絵を描き続け、創作活動に専念するため時間の融通が利く定時制・通信制の宍道高校を進学先に選んだ。夢の中で見たシーンを絵で再現し、神話を題材にした絵本を自作するなどしてきたが「平面(絵)ではなく別の方法で表現したい」との思いから昨年9月に人形制作を開始。当初は子ども向け人形だったが「いま作っているような雰囲気の人形は見たことがなかったので自分で作ってみようと思った」。
人形制作で非凡な才能を見せる一方、既に別の表現方法へ興味は移り、現在は「能面」づくりを進める。「人形にポーズを取らせるよりも、自分自身で頭の中にある姿を表現した方がいい」と話し、完成後、自身が面を身につけて撮影し作品にする。
幼少期から通底する「自分自身で表現をしたい」との思いはさらに強まる。これまで作品展示の機会は多くなかったが「もっと増やしたい」と話す。創作の様子やこれまでの作品はインスタグラムのアカウント(nozaki_chiaki)で発信を続ける。