島根大の研究グループが、かつて海水で満たされた宍道湖が13世紀に現在の「淡水性」に変化したとの調査結果を明らかにした。これまでは17世紀とされており、400年ほど推定年代がさかのぼることになる。中世における宍道湖周辺の人々の農耕や食生活について、イメージを刷新する知見といえそうだ。
宍道湖の塩分濃度が下がり海の性質を失った原因は、近くの斐伊川の流れが変わり、宍道湖に淡水が大幅に流入するようになったためと考えられている。
ただ、年代に直接言及した文献は残っていない。先行研究では江戸初期の複数の文献から17世紀の大洪水で斐伊川が宍道湖に流れ込むようになったとの推測はあるものの、十分な科学調査は行われていなかった。
島根大エスチュアリー研究センターの仲村康秀特任助教(海洋生物学)と、瀬戸浩二准教授(環境地質学)は、宍道湖に時代を経るごとに積もった堆積物から年代が特定できると推測。2020年6月に調査を始めた。湖底から深さ4メートルの堆積層を取り出し、複合的な手法で分析して年代を追った。
まず1センチ刻みの層に土の塊を分け、含まれる生物の死骸のかけらから各層の年代を特定。次いで海水が多く含まれる硫黄の濃度を層ごとに調べ、13世紀の地層(深さ2・5メートル程度)以降に硫黄が突如、3分の1以下に減ったのを突き止めた。
補足材料として、物質中の生物の種類が分かる「DNAメタバーコーティング」で、各層に含まれるプランクトンも調査。この結果、13世紀ごろを境に湖内で海水に生息する種類が激減し、淡水性が増えていることが分かった。
研究データの大半がこのほど出そろい学会で発表。今後、論文にまとめる。仲村特任助教は宍道湖が海でなくなったことで、採れる魚介類が大幅に変わり、一帯の農作物への塩害もなくなったはずだとして「中世の松江の生活像が大きく変わる」とみる。瀬戸准教授も「今後も宍道湖一帯の細かな変動を調べ、地域の歴史文化と照らし合わせてゆく」と意気込む。
(佐貫公哉)