9月10日(土曜)は「中秋の名月」。暑さが和らぎ、暗くなってくると月がきれいに見え、お月見を楽しめるシーズンがやって来た。月見や天体観測をより深く楽しむために知っておきたいポイントは何か。島根県立三瓶自然館サヒメル(大田市三瓶町)の学芸員で、天文学を専門とする竹内幹蔵(みきまさ)さん(55)に楽しみ方を聞いた。(Sデジ編集部・宍道香穂)
月見を楽しむには
○見頃は?
「日が沈んだ直後は空がまだ明るいが、30~40分たつと空が暗くなってくる。日の入りから1時間も経過すると空が十分に暗くなり、月も明るくなって観測しやすくなる」(竹内さん)
太陽が沈んでから少し時間がたつと、東の空に満月が出てくる。10日の日の入りは午後6時38分。美しい月を見るには午後7時半ごろ、東の空を見ると良さそうだ。
○月を見る時に注目すると面白い点は?
「月は時間がたつにつれて模様が変わるように見える」(竹内さん)
厳密には模様が変わるのではなく、地球から見た月の向きが変わることで模様が変わったように見えるという。
月には「海」と呼ばれる暗い部分と「高地」と呼ばれる明るい部分とが入り交じっているため模様のように見えている。月の表面の模様を「ウサギが餅つきをしている」と表現することがあるが、これは月が浮かんですぐのタイミングの模様という。時間がたって月が高い場所に昇ると、上下がひっくり返って模様が逆さになる。

「どう見てもウサギの餅つきには見えない…」と思っていたが、月を見る時間が遅かっただけなのかも知れない。これから夜の早い時間に月を見る時はウサギを探してみようと思った。
秋に月見をするのはなぜ?
○なぜ秋に月を見ることが定番行事になったのか?
「空が澄んでいることと、月の高さがちょうどいいこと」(竹内さん)が理由の一つとして考えられるという。
満月が昇る高さは夏に低く、冬に高くなる。春と秋は満月が低すぎず高すぎず、ちょうどいい場所にあり観測しやすいが、春は空気がかすんでいるため、くっきりとは見えない。
春の月を「おぼろ月」と呼ぶのは、空気がかすんでいて月がぼやけたように見えることに由来している。秋は満月がのぼる高さがちょうど良く、空気も澄んでいて月をくっきりと見ることができるため、月見にぴったりの時期という。
また、中国からアジア各国に伝わったとされる月見は収穫祭も兼ねている場合が多く、農作物の収穫の時期である秋に開催されるようになったとも考えられる。天文学的な条件と文化的な要素が組み合わさり「月見と言えば秋」という状況ができたようだ。

満月、半月、三日月 それぞれの魅力
月には満ち欠けがある。一カ月かけて「三日月」「半月」「満月」と進み、再び半月や三日月に変化していく。
竹内さんは「それぞれの月に面白さがある」と、魅力や楽しみ方を教えてくれた。
○三日月
三日月は太陽が沈む西の空に見える。空が暗くなってからではなく、まだうっすらと明るい時間に見えて、太陽を追いかけるように沈んでいくのが特徴だ。
「くれなずむ西の空にうっすらと細い三日月が浮かぶ様子は趣がある」(竹内さん)
また、三日月の間は太陽から当たる光が弱いため、影になっている部分もよく見える。光が当たっている細い部分だけでなく、影になっている部分も見えて月の丸い輪郭がうっすらと確認できるのも、三日月ならではの面白さという。

○半月
半月は太陽が沈んだ頃、南の空に出てくる。
「半月の時期は、月表面のクレーターが見えやすい」(竹内さん)
クレーターは月の表面にある凹凸で、光の当たり具合が強すぎない半月の間が一番見えやすいという。双眼鏡を用意すれば、くっきりとしたクレーターを観測できる。

○満月
満月の魅力は、なんと言っても明るさ。太陽の光をいっぱいに浴びる満月は、ほかの形の月と比べてひときわ明るく輝く。
「現代の人はなかなか気にすることがないと思うが、満月の夜は月の明かりで建物や人の影ができるほど明るい」(竹内さん)
室内の光や街灯がある状態では確認しづらいが、屋外の暗い場所に行くと月明かりだけでも周りがよく見える。満月の夜は電気を消して外に出てみると、普段は味わえない幻想的な雰囲気に癒やされそうだ。

土星や木星もお薦め
秋から冬は空気が澄んでいて天体観測に適している。これからの季節、月以外にお薦めの星は何だろうか。竹内さんは「今の時期にお薦めしたいのは土星と木星」と力を込めた。
惑星は毎年、見える季節が異なり、今年の秋は土星や木星が見頃という。いずれも東からのぼり、土星は午後7時頃、木星は午後8時頃に見え始める。
○観察のポイント
「どちらもとても明るいので見つけやすい。月を挟むように並び、日によって月との距離が縮まったり遠ざかったりするところも面白い」(竹内さん)
また、今年は冬になると火星がよく見えるという。11月後半から徐々に見え始め、12月に見頃を迎える。土星や木星と同じく東の空に、午後7時頃から見えるという。火星のほかにもオリオン座や「冬の大三角形」といった星座も美しい。

この夏の猛暑がいつの間にか和らぎ、朝や夜は涼しく過ごしやすくなってきた。昨夜(7日)は南の空に美しい半月が見え、時折かかる雲がまた、美しかった。10日(土)の天気予報は曇りだが、満月に出会えるといいなと思う。たまには空を見上げて星や名月をじっくり眺めてみると、ゆったりと流れる時間の中に新たな発見や感動があるかもしれない。