2012年9月の尖閣諸島(沖縄県石垣市)の国有化から10年。中国の公船は尖閣周辺の海域で活動を繰り返して自国の「領有権」をアピールする。今、尖閣を巡る対立は台湾有事への懸念と並んで日中関係悪化の主因となっている。
8月のペロシ米下院議長の訪台に反発した中国の軍事演習では、尖閣諸島南部の日本の排他的経済水域(EEZ)にも弾道ミサイルが落下した。9月29日の日中国交正常化50年を前にして両国の関係は冷え込む。
領有権争いは両国民のナショナリズムを刺激しがちであり、衝突を回避するために慎重な対応が必要だ。14年11月、日中両国は尖閣問題について「対話を通じて情勢悪化を防ぎ、不測の事態の発生を回避する」などの4項目に合意した。こうした共通認識に基づき、冷静な対話を通じて事態の沈静化を図るべきだ。
10年前、野田民主党政権はタカ派の石原慎太郎東京都知事が進める都の尖閣購入を阻止するために国有化した。中国は「実効支配の強化」と激しく反発し、大規模な反日デモも起きて両国関係は著しく悪化した。
海上保安庁によると、それまでほとんどなかった中国船の領海侵入は、国有化以降の10年間で計333件、今年は20件に上った。領海外側の接続水域の航行も恒常化して20年以降は年間330日のペース。中国は12年に40隻だった大型船を21年末までに日本の2倍近い132隻に増やし、海警局を軍指揮下の武装警察に編入した。
海警局の船は日本漁船が来ると領海に侵入して追尾する。日本の巡視船は漁船を守るため中国船に立ちふさがって退去を要求し、現場では危険なせめぎ合いが続く。
中国は漁船の追尾と別に「領海パトロール」(海警局)を月1回程度行っている。16年8月の禁漁明けには数百隻の中国漁船が尖閣周辺に押し寄せた。その後、中国は操業を自粛しているもようだが、1年間に数十隻の中国漁船が領海に侵入する。中国は公船の領海侵入をやめ、漁船の操業自粛を徹底すべきだ。
08年、当時の胡錦濤国家主席が来日した際の日中共同声明には「共に努力して東シナ海を平和・協力・友好の海とする」と盛り込まれた。日中両国はこの誓いを忘れてはならない。
18年、偶発的な軍事衝突を避けるための防衛当局間の相互通報体制「海空連絡メカニズム」が始まった。両国はメカニズムの柱であるホットラインの早期運用を実現する必要がある。
尖閣や台湾のほか、香港・新疆ウイグル自治区の人権侵害、経済安全保障など日中間の問題は数多い。米中対立の中で、中国は日米豪印欧などの対中包囲網や日本の軍事力増強を強く警戒する。
歩み寄りには首脳同士の対話が不可欠だ。日本側は9月中のオンライン首脳会談の開催を打診し、岸田文雄首相は東京都内で29日に開かれる国交正常化50年記念式典に出席して首脳対話の強化を呼びかけるとみられる。
中国の習近平国家主席は新型コロナウイルスに感染した岸田氏を見舞う電報で「新時代の求めに合う中日関係の構築を一緒に推し進めたい」と訴えた。両首脳は昨年10月の岸田政権発足直後に電話会談したが、その後会談はない。早期に対話を再開し、日中関係の修復に努めるべきだ。





 
  






