「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の初会合であいさつする岸田首相(右)=9月30日、首相官邸
「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の初会合であいさつする岸田首相(右)=9月30日、首相官邸

 岸田文雄首相が年内の改定を表明した外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書の議論が本格化している。

 岸田首相は臨時国会の所信表明演説で「国民を守るために何が必要か、現実的な検討を加速する」と表明。防衛力強化を巡る有識者会議も始動させた。自民、公明両党は近く与党協議を始める。

 改定論議の焦点は防衛費の大幅増額と、相手国の領域内でミサイル発射基地などを攻撃する「敵基地攻撃能力」の保有の是非だ。確かに中国は軍備拡張を続け、北朝鮮は5年ぶりに日本上空を越える弾道ミサイルを撃つなど核・ミサイル開発を進める。日本を取り巻く安保環境は厳しい状況にある。

 だが、日米同盟の下で「専守防衛」を基本としてきた戦後の安保政策の根本的な転換につながりかねない改定だ。防衛力の増強が本当に抑止力として実効性を持つのか。財源はどう確保するのかなど論点は多い。国民の理解が得られる、透明性の高い議論が必要だ。

 岸田首相は文書改定前に与野党の党首会談を行う考えを示したが、それ以前に国会で徹底した論戦を行うべきだ。

 岸田首相は所信表明で「防衛力の5年以内の抜本的強化」を強調した。自民党は国内総生産(GDP)比1%前後で推移してきた防衛費の2%以上への増額を主張。敵基地攻撃能力も、あくまでも先制攻撃ではない「反撃能力」と称して保有を求めている。

 しかし、防衛力の在り方を巡っては、本当に必要な装備は何かを慎重に検討すべきだ。日本の防衛力増強は周辺国を刺激し、不測の衝突が懸念される軍拡競争に陥りかねない。ミサイル発射技術が進歩する中で、整備に巨額の費用がかかる反撃能力の保有が本当に抑止力として機能するのか。

 2023年度から5年間の装備品の経費額を示す「中期防衛力整備計画(中期防)」を巡り政府、自民党内では40兆円超が検討されている。過去5年間の約1・5倍になる。だが、その財源はどうするのか。国債発行も選択肢とする声もあるが、借金に依存する軍拡は歯止めを失う恐れがある。「増強ありき」ではなく、こうした課題を総合的に勘案して議論すべきだ。

 岸田首相は所信表明で「必要な防衛力の内容、そのための予算規模の把握と財源の確保を一体的に進める」と述べた。その内容を丁寧に国民に説明しなければならない。

 政府が新たに設置した有識者会議には安保だけでなく経済や科学技術の専門家も入り、「国力としての防衛力を総合的に考える」としている。軍備だけが防衛力ではなく、外交や経済力も含めた「国力」の強化を考えなければならないということだろう。異論はない。

 9月末の初会合では「防衛費の財源は安定的に確保すべきだ」と指摘する意見も出た。そうであるならば、厳しい財政事情の中で国民に負担増を求めることになり、増税も視野に入ってくる。新たな負担増に国民の理解が得られるのか。

 政府は文書改定のため1月から17回にわたって専門家との意見交換を行っている。だが、非公開で、全てが終了後に発言要旨を公表しただけだ。これでは不十分だ。政府や有識者、与党間の議論の内容を国民に公開する対応を求めたい。