和紙で作った名刺入れやコースターを並べる「広瀬和紙 四季漉」の店内=安来市広瀬町布部
和紙で作った名刺入れやコースターを並べる「広瀬和紙 四季漉」の店内=安来市広瀬町布部

 350年以上の歴史がある、島根県ふるさと伝統工芸品「広瀬和紙」に20代の後継者が誕生した。今春、安来市広瀬町布部に工房を併設した店舗「広瀬和紙 紙季漉」を開店。顧客の開拓や企業とのコラボレーションを模索し、脈々と受け継がれてきた和紙作りに新たな風を吹かせようと奮闘している。

 境港市出身の大東由季さん(27)は市内の高校を卒業後、専門学校・京都伝統工芸大学校(京都府南丹市)に入学。センスが求められる造形の分野より、素材そのものの魅力に関心を持ち、和紙工芸を学んだ。卒業後、石見神楽の面などに使う和紙作りをする浜田市内の事業所に勤めた後、たった一人で広瀬和紙を作り続ける職人に弟子入り。約3年の修業を経て、独立した。



 広瀬和紙は、ちぎり絵用として人気があったが、新型コロナウイルスの影響で大口の卸先を失ったという。大東さんは自作の名刺入れやコースター、ランプシェードなどを店舗に並べ、新たな顧客層の掘り起こしに動く。また、顧客の要望に応え、鳥取県の弓浜半島で盛んに栽培されている伯州綿を取り入れた和紙や、わらを原料にした半紙の製作など積極的に挑戦している。地元金融機関の紹介で、地元企業との商談も持ち上がっている。

 夏場は湿度が高く和紙の目が粗くなるため、工房作業を休止し、口コミで集まった地元の住民を対象とした紙染めの体験教室を開催。彼岸花や赤じそなど自然由来の草木染めは好評だった。

 和紙の可能性を広げ、さまざまなことにチャレンジする大東さんだが、原点は師から受け継いだ丈夫な和紙作りだ。10月に入り、本格的に製作が始まった。「まずは和紙の良さを知ってもらいたい。私が作る和紙が欲しい、と言ってくださるお客さんを少しずつ増やせたらいい」と意気込む。