「心身にやさしい」山陰両県の店を紹介する企画の第3弾。今回は地産地消を心がけた定食などを手がける「ほっこり食堂 繋がる根」(松江市玉湯町湯町)を紹介する。(Sデジ編集部・吉野仁士、宍道香穂)
店主の平山春奈さん(38)が地元産の食材を使い、定食やカレーを提供している。店は温泉街にあり、地元に住む常連客だけでなく観光客もよく訪れるという。

▼地元産食材で「手作り」にこだわり
一番人気は地元産の食材や調味料をふんだんに使った日替わり定食(880円)。取材した日の品目は松風焼き、マコモダケと小松菜のあえ物、マトウダイのみそマヨパン粉焼き、サツマイモの甘煮、キャベツとレタスのサラダ、ご飯とシジミのみそ汁、卵焼き。

松風焼きといえば一般的には鶏ひき肉のみだが、「繋がる根」では豆腐、タマネギを混ぜて焼き上げたという。豆腐によって口当たりがまろやかになるのに加え、タマネギのシャキシャキとした食感が小気味良い。サラダに使うドレッシングはカキで作った。やみつきになる甘みがあり、思わずおかわりしたくなるほどおいしい。マトウダイのみそマヨパン粉焼きはみそとマヨネーズが白身のマトウダイに調和し、あっさりしていながらもしっかり食べ応えのある新感覚の味わいだった。
コメは全て無農薬で栽培されたもの。栄養のある胚芽部分を少し残した「七分づき」を土鍋で炊き上げた。玄米と白米のちょうど中間のような味と歯ごたえで、普段は何気なく飲み込むコメの味をかみしめて堪能したくなる。みそ汁には杉だるで仕込んだ自家製みそを加え、ほのかに爽やかな香りがする。
定食に並ぶ看板商品のカレードリア(880円)は地元の窯元が焼いたというきれいなだ円形の器に盛られ、サラダが付いてくる。ドリアは島根県奥出雲町のしょうゆや松江市の酒造会社の本みりんを使い、和風味に仕立てた。バターと一緒に炒めたコメは香ばしく、カレー特有の匂いと合わさって食欲をそそる。ドリアを口にしてみると、カレーと言いつつも辛さは全くないあっさりとした味わい。子どもにも人気の一品だというのも分かる。ドリアの中央には雲南市三刀屋町で採れた卵が配置されていて、黄身をカレーにからめて食べると、あっさりとした中に卵の口当たりを感じる優しい味わいになり、さらにおいしい。辛さを求める人用に、タバスコや一味唐辛子もついているので、お好みで使えば違った味を楽しめそう。

食材の選別や調理の要所に気遣いが見える、まさに「優しいお店」だ。
▼亡き夫の夢引き継ぐ
平山さんは玉湯町出身で結婚を機に2010年、茨城県に移住したが間もなく東日本大震災で被災し11年4月に地元に戻った。夫・徳人さんが長年の夢だった居酒屋を開いたが15年に他界。平山さんが店を受け継ぐ形で、昼に営業し定食などを提供する現在の形に落ち着いたという。

家族で外食をする時など「安心して食べられるものを提供する場所があれば」と思うことが多く、自分で作ろうと店で提供するようになった。
地元農家から旬の野菜を仕入れ、コメは安来市や雲南市掛合町産の有機米を使っている。安心して食べてもらいたいと「手作り」にこだわり、マヨネーズや麹(こうじ)といった調味料は可能な限り自分で作っている。
食材だけでなく食器も「地元産」にこだわり、湯町窯や袖師窯、出西窯といった島根県内の窯元で作られた器を使っている。定食に付けている卵焼きは湯町窯の「エッグベーカー」で調理、提供している。

▼観光客と常連客が「つながる」店に
温泉街にあるため観光客が訪れることが多く、地元や山陰を発信したいという思いが強い。店内には徳人さんが居酒屋を営んでいた頃に親しくなった、米子市の芸術家が描いてくれた絵画を複数展示し、客に紹介することがある。棚には山陰を紹介する旅行冊子や、境港市出身の漫画家、故・水木しげるさんの本も置き、地元の魅力を伝える。
10平方メートルあまりのカウンター形式の店内は、客との距離が近い。観光客に地元のお薦めのお店を紹介したり、常連客からの悩み相談を受けたりと、いろいろな会話ができ、温かい気持ちになれるという。平山さんは「お客様から対面で、ダイレクトに感謝を伝えてもらえるとうれしく、温かい気持ちになれる。皆さんとの距離が近く、もはや家族のような感じ」と、幸せそうに話した。

「ほっこり食堂 繋がる根」という店名は夫が付け、現在も同じ名前を使っている。「最初は変な名前だなと思ったけど、名前通りの店になったな、温かい空間を提供できているなと思う」(平山さん)。地元の人間や観光客が一つの場所に集まり、垣根なく交流し「つながる」食堂。心も体も、ほんのりと温まった。