心身に優しいものを提供する店を紹介する「はるかほのやさしいお店巡り」。今回は米子市を拠点にスパイスカレーや焼き菓子を販売する「mochi(モチ)」を紹介する。(Sデジ編集部・宍道香穂)
店主の持田明子さん(36)がイベントを中心に、手作りのスパイスカレーや菓子を販売している。看板商品は旬の野菜を使った「モチカレー」。鳥取県内の直売所で購入した野菜をふんだんに使い、オリジナル配合のスパイスを効かせている。カレーはイベントや間借り出店で1000円から販売している。酵母やスパイスを使ったマフィン、クッキーなども手がけ「罪悪感なく食べられるお菓子」として売り出している。出店情報はインスタグラムで発信している。
旬の野菜を使ったカレーを食べてみた。ガラムマサラのスパイシーな香りが食欲をそそる。彩り豊かな一皿の中でまず目に飛び込んできたのは、輪切りにしたイチジク。カレーにイチジクとは珍しい組み合わせ。どんな味になるのだろう。ナスやトマト、オクラといった野菜のほか、ごろっとしたチキンも入っている。一皿で栄養をたっぷり取れそうでうれしい。
一口食べると、良く煮込まれたカレーのうまみが口に広がる。イチジクとカレーの組み合わせは想像が付かなかったが、食べてみるとイチジクの爽やかな味わいが良く合っていておいしい! チキンや野菜も食べ応えがあり、かなり満足感がある。醤油で味付けされた厚揚げも入っていて、スパイシーなカレーとほんのり甘い厚揚げが良く合っている。さまざまな食材が入っているのに、ごちゃごちゃした感じがなく、どの具材もカレーとの相性がぴったりで驚いた。食べるたびに違う味の組み合わせを楽しめるのは新鮮な感じだった。

▽子育て機に働き方を模索
持田さんは兵庫県出身で2016年、夫の地元・米子に家族で移住した。米子や山陰地方への印象は「人が穏やかで優しい。生活の一部に自然があるところや食べ物がおいしいところが好き」とのこと。
持田さんはもともと小学校教員として働いていたが、移住を機に退職。その後、妊娠と新型コロナ禍の自粛期間が重なり「子育てをしながらの働き方を考えるきっかけになった」という。「働くなら自分で時間をコントロールできる仕事がしたい」と、個人事業主として起業する道を思い描くようになった。
持田さんは料理を作ったり食べてもらったりすることが好きで、米子に移住してからもよく友人に手料理を振る舞っていた。スパイスカレーも当時から作っていて、友人から「おいしいから絶対売れるよ」と販売を勧められた。

カレーを売りたいとの気持ちはあったが、理想の働き方をイメージすると「店舗を持つのは難しいと思った」(持田さん)。販売方法について悩んでいた頃、雑誌の記事で店の一角を間借りしてカレーを売っている人がいると知った。当時、地方では店舗の一角を間借りするスタイルは一般的でなかったが「これならできるかも」と感じたという。
2020年、持田さんは米子市内のカフェを間借りさせてもらい、初めて自作のカレーを販売した。「誰にも相手にしてもらえなかったらどうしようと不安があったが、ママ友たちの応援もあって、1日で30人もお客さんが来てくれた」(持田さん)。
その後も数回、販売を重ね2021年に「mochi」の名前で開業した。カレーだけでなくオリジナルの菓子も販売するようになった。

持田さんが作るマフィンやクッキーは砂糖控えめ。「食べる時も食べた後もごきげんでいられるお菓子を作りたい」と、地元産の米粉や小麦粉、豆腐を使い「罪悪感なく食べられるお菓子」をテーマにしている。
看板商品の「モチマフィン」(300円)は酵母と豆腐で作るマフィンで、ブルーベリーと夏みかんジャム、ほうじ茶とガラムマサラなど、個性豊かな組み合わせが楽しい。持田さんはお菓子やカレーを作る時「味覚よりも感覚に焦点を当てているかもしれない」と言う。「食べる時に心地よさや楽しさを感じてもらいたい。身構えずに食べられるカレー、生活の一部になるおやつを作るよう心がけている」と、こだわりを話した。

▽商品通して「楽しさ」表現
持田さんのカレーは色とりどりで、さまざまな食材が自由に組み合わせられている印象。 持田さんは「誰が食べてもおいしいように、多くの人にとってなじみがある食材を取り入れている」と、こだわりを話した。また、酸味、甘み、塩気、辛みと、さまざまな味わいの付け合わせを一皿にまとめるよう意識し「楽しいカレー」を提供するよう心がけているという。

確かに、持田さんのカレーを食べていると「次はどの付け合わせを食べよう」「厚揚げは意外とカレーに合うのだな」と、ワクワクした気持ちで食べ続けることができて楽しかった。持田さんは物作りが好きで、カレーは「自己表現のツール」でもあると言う。「カレーはスパイスも食材も自由に組み合わせて作れる。型にはまらなくてもいいよとのメッセージも込めて作っている」(持田さん)。
今後について持田さんは「こうあるべき、とビジョンを固めすぎず柔軟に続けていきたい」と話した。「型にはまるときゅうくつになる。こういう組み合わせもありじゃない、と商品を通して自由さを提案していきたい」と、カレーやお菓子に込めた思いを教えてくれた。自由な発想を形にして「ワクワク」や「心地よさ」を提供する持田さん。物事を柔軟に捉え、日々の生活を楽しむヒントをもらえた気がした。