「心身にやさしい」山陰両県のお店を紹介する「はるかほのやさしいお店巡り」。今回は自家製のあんこでスイーツを製造、販売する松江市の「星(せい)あん」を紹介する。(Sデジ編集部・宍道香穂)
▷豆の食感残した粒あん
店主の上野星紗(せいさ)さん(44)は大のあんこ好き。店舗なしで、松江市を中心にイベントでスイーツを販売している。また、2カ月に1回のペースで「あんこ教室」を開き、参加者においしいあんこの炊き方を教えている。
看板メニューのおはぎ(200円)は、甘すぎず、さっぱりとした味わいにするために小豆の粒が大きめの大納言を使っている。小ぶりの小豆を使うよりも甘さが抑えられ、粒感が感じられるのが特徴。上野さんはあんこを作る時、渋みを取り除くためにゆで汁を捨てる「渋切り」の回数をあえて少なくし、豆本来の風味がなるべく残るようにしている。あんで包むごはんは、もち米に白米を混ぜ、翌日になっても固くなりにくい、もちっとした食感を保つよう工夫されている。

おはぎを食べてみた。ごはんを包んだあんは、大納言のつぶつぶとした形がきれいに残っていて口に入れるとボリュームがあっておいしい。想像以上に甘さ控えめで驚いた。おはぎといえば、濃いめの甘さが口に残るイメージだが、星あんのおはぎは甘さ控えめで、小豆という植物性由来のうまみが巧みに引き出されている。小腹がすいた時、おにぎりを食べる感覚で食べられそうなおはぎだと感じた。
▷好きなもの通して「つながり」広げたい
上野さんは益田市出身。両親が共働きだったため、幼少期は「おばあちゃん子だった」という。上野さんの祖母は趣味でおはぎを自作し、近所の人々に配っていた。上野さんは自身の祖母の人柄を「おしゃべりが大好きで、旅行も大好き。外に出て行くタイプだった」と懐かしそうに話した。おはぎを配る時は上野さんも同行し、周囲の人とのコミュニケーションを楽しむ祖母を間近で見ながら育った。

28歳の時、結婚を機に松江市に移住した。松江市内には和菓子屋が多く、あんこ好きの上野さんはさまざまな店を巡り和菓子を楽しんでいた。30代前半のある日、スーパーで購入したおはぎが甘すぎると感じ、祖母のように自分で作ってみようと思い立った。まずは本を読み、あんこ作りについて勉強した。使用する砂糖の種類や量、あんこの炊き方を試行錯誤し、好みの甘さ、食感のあんこにたどり着いたという。

当初は趣味であんこを炊き、おはぎを作る程度だったが、少しずつイベントなどに出店し、販売するようになった。上野さんはもともと祖母と同じように、人と話すことや、にぎやかに過ごすことが好きな性格だったが、松江に移住した当初は慣れない土地、文化の違い、知り合いがいない孤独感などから「地元に帰りたい」と塞ぎ込んでいたという。おはぎを作るようになって、あんこを通して再びコミュニケーションの輪が広がった。今では「あんこを通して仲良くなった人と飲みに行くこともある」という。
イベントで上野さんのスイーツを発見し「あった!」と喜ぶ人たちや「おいしかった、また食べたい」「星さん(上野さん)のあんこが食べたい」との言葉に励まされているという。上野さんは「好きなことで人とのつながりが広がっていくのが糧になっている」と楽しそうに話した。

イベント前などは準備に追われ、徹夜で作業することもあるが「好きなことで活動するのは楽しい。大変な事があっても頑張れる」と上野さん。
スイーツ販売に加えて2021年末から2カ月に1回、あんこの炊き方を教える教室を開いている。
教室では上野さんが参加者にあんこの炊き方を教えたり、あんこに合う食材やお薦めの食べ方を紹介し合ったりする。「あんこ好きの人たちの情報交換の場にもなっている」と上野さん。朗らかに、楽しそうにあんこの話をする上野さんと、上野さんが作るおいしいスイーツに元気をもらった。