収穫の秋。書き入れ時を迎え、神経をとがらせているのが果樹農家だ。転売などの目的でカキやブドウなどを盗む「果物泥棒」が、山陰両県でも後を絶たない。詳しい統計はなく、規模も大きくはないが、丹精を込めて育てた「旬の味覚」を被害から守ろうと、警戒を強める。 (古瀬弘治)
「少量のものは毎年のようにぽつぽつとある」。島根県特産の西条柿の生産・販売・加工を手がける「柿壺(かきつぼ)」(出雲市野石谷町)の小松正嗣さん(41)が明かす。甘柿が育つ11月が特に多いという。
2016年には三つの農地にまたがり、収穫を目前に控えた5トンを超える量のカキが盗まれた。以来、赤外線を使った装置で、農地の人の出入りを監視し、夜間も撮影可能な防犯カメラを設置したほか、職員も出退勤時のルートを決めて目を光らせている。
少量とはいえ後を絶たない状況に諦めのような心情も芽生え、「カキが愛されている証しなのかな」と考えることもあるが、今年は新たに「立ち入り禁止」を呼びかける看板も設置した。
島根、鳥取両県警によると、「果物泥棒」についての統計は取っておらず、両県の詳しい被害状況は分からない。
だが、生産者やJA関係者らによると、島根ではブドウ、鳥取では県中部を産地とする「鳥取スイカ」などが狙われ、毎年のように被害も出ている。被害や犯人の捜査の手がかりとして防犯カメラが有効なのは分かっているものの、設置するのは多くの生産者にとって経済的な負担が大きい。そのため、少量であれば目をつむる現状がある。
柿壺では1カ所だけでも140万円の設置費用がかかり、経営にも響いた。それでも、小松さんは「『地域ぐるみで産品を守る』という思いが高まってほしい」と願い、できることはやっていく考えでいる。