新型コロナとインフルエンザの注意点について話す竹谷健教授
新型コロナとインフルエンザの注意点について話す竹谷健教授

 この冬、新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時流行が心配されている。政府は医療逼迫(ひっぱく)を避けるため、軽症のインフルは自宅診療やオンライン診療を勧めるが、もし熱が出て症状があってもすぐに受診ができないことに対する不安は大きい。インフルの流行時期に向けた注意点や、発熱があった場合の対応についてまとめた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 ▼今季インフル「ほぼ間違いなくはやる」

 島根大医学部付属病院小児科の竹谷健教授(51)に話を聞いた。竹谷教授は小児科の医師で、小児がんやアレルギーだけでなく、感染症にも詳しい。竹谷教授によると「インフルエンザの国内の患者数は10月末時点で、昨年の9~10倍。去年も世界でははやったが、日本は入国制限をしたからはやらなかった。近年は流行がなく、国内での免疫力が下がっている上に入国制限が緩和されたので、今季はほぼ間違いなくはやる」と断言した。

 竹谷教授によると、インフルの感染経路は主に飛まつ感染。ウイルスが空気中を長時間漂うことで感染することもあるコロナと比べると「マスクをしていればコロナよりも防げる」(竹谷教授)とする。厚生労働省と文部科学省は2歳以上から就学前の子どもについて、一律のマスク着用を求めないため、竹谷教授は「小学生以上はマスクである程度予防できるが、特に就学前の保育園や幼稚園ではインフルがはやる可能性がある」と注意を呼びかけた。

これまでは子どもがのびのび遊べるよう、保育所によっては屋外など場面を限定してマスクを外すところもあった。これからのインフルエンザの流行時期は一層の注意が必要になるかもしれない(資料)

 インフルの主な症状は高熱やけん怠感に加え、せきなどの呼吸器症状。中学生以上で基礎疾患のない人が重症化する可能は低いが、子どもは熱性けいれん、高齢者は肺炎を併発する危険性があるという。竹谷教授は小児に限れば、コロナよりもインフルの方が重症化しやすく危険だと言い、まずはかからないよう、マスクや手洗い、うがいで予防することの重要性を指摘した。

 

 ▼無理せず相談を

 政府はインフルとコロナの同時流行を見据え、医療逼迫を避けるため、発熱外来の診療を絞るといった対策を盛り込んだ指針を、10月13日に発表した。

 指針では、発熱外来の受診を推奨するのは、病気になった際に重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患がある人、妊婦、小学生以下の子ども。それらに該当しない人は検査キットで自己検査し、陽性時は健康フォローアップセンターに登録して自宅療養に、陰性時はかかりつけ医やオンラインによる診療に入る、としている。

写真を拡大

写真を拡大政府が示した、発熱した際の治療までの流れ。上が重症化リスクが高い人、下が低い人向けのもの。

出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00400.html)

 ただ、竹谷教授は「実際は体調が悪くなったら、無理はせずかかりつけ医に相談し、受診するのが一番良い」とする。政府指針での自宅診療でインフルの対策としてできることは、薬を郵送してもらい安静にすること以外にない上に、インフルの内服薬はかかってから2日間程度以内でないと効果が薄く、早い処置が重要だという。

 また、体調悪化の原因は元々持っていた病気の悪化だったり、インフルやコロナ以外の病気だったりする可能性もある。竹谷教授は「医療を守ろうという国の指針はありがたいが、病院は患者を守るためにある。我慢して症状が悪化するより、かかりつけ医に相談したり病院に来たりしてもらいたい」と早めの受診を勧めた。

「具合が悪い時に『国の指針があるから』と我慢する必要はない」と早期受診を勧める竹谷教授。

 医療逼迫を避けることは重要だが、あくまでも各個人の体調を最優先してほしいというのが竹谷教授の考え。山陰両県で、医療逼迫を避けるための手段としては、コロナやインフルにかからないよう感染対策に力を入れるのが一番良い。

 

 ▼同時流行の可能性はある?

 コロナとインフルの同時流行について、注意点はあるのだろうか。

 竹谷教授は「インフルが流行する可能性は高いが、コロナが同時に流行するのは考えにくい」とする。コロナはオミクロン以降、新たな変異株が確認されていないためだ。また、変異株が出たとしても「これまでより弱いウイルスになる」と話す。ウイルスが強すぎると宿主である人間を弱らせ、自身が生き残れなくなるため、病原性は弱まっていく傾向にあるという。

 これに加えてあるウイルスが流行すると、同じ時期に別のウイルスが大流行することは疫学的にあまりない。「ウイルス干渉」といい、流行したウイルスへの免疫反応によって他のウイルスに感染しにくくなるという。

インフルエンザの対策としては、マスクや手洗いうがいに加え、ワクチン接種も毎年推奨されている(資料)

 竹谷教授は「もちろん、同時流行する可能性もある。医療安全上、最悪の場合を想定して備えないといけない。インフルはコロナと違い、効果的な内服薬があるため過度な心配はいらないが、まずはともに感染しないような対策を意識してほしい」と話した。

 

 ▼もし発熱といった症状があったら…

 インフルとコロナが同時流行した場合、両ウイルスでの初期症状は類似し、一般の人では判別が難しい。この冬、発熱といった感染を疑う症状があった場合はどうすればいいのだろうか。

 島根県感染症対策室の田原研司室長は発熱があった場合は従来通り、県内7保健所に設置された健康相談コールセンターへ連絡するか、かかりつけ医、またはコロナの診療や検査が可能な医療機関に、電話した上で受診するよう勧める。田原室長は「体調に不安がある人はコールセンターに連絡してもらえれば、症状に合った医療機関を紹介できる。しかるべき機関で迅速かつ適切な検査、診療を受け、自身の健康を守ってほしい」と一刻も早く受診するよう呼びかけた。各コールセンターの連絡先はこちら

 島根県では既にインフル流行の兆しがある。2022年10月下旬には石見智翠館高校(江津市渡津町)で、県内で2020年3月以来となる、インフルによる学級閉鎖が発生した。県はコロナとの同時流行を想定し、県内288カ所の医療機関にある発熱外来を300カ所以上に増やすべく調整中だ。

 鳥取県の発熱時の対応も島根県と同様。平井伸治知事は10月19日の会見で同時流行への対策について触れた。国の指針とは異なり、現状は中学生以上の基礎疾患がない人であってもコロナの自己検査は勧めず、医療機関に連絡した上で通常通り受診するよう求めた。ただ、インフルとコロナの流行度合いによっては、国の指針に沿う形も視野にするという。

 加えて、県民と来県者を対象にした無料のコロナ検査を11月30日までに延長するほか、年末年始の時期も検査、診療体制を確保してもらうよう、医療機関に依頼する。平井知事は「早期に受診することでコロナ検査も初期治療もできる。同時流行は人間の働きかけによってある程度抑制できるはずなので、県民の皆さんにしっかり予防してもらうことで感染拡大の波を抑え、その間に医療体制を整えたい」と感染予防の徹底を求めた。

 

 

 両県ともこの冬は県民の命を守る医療をどう守るかということが大きな課題になる。コロナとインフルの同時流行が懸念される冬になるが、必要なのはやはり、これまでと同様の感染対策。体調管理とともに対策を意識し、コロナとインフルがともに大流行とならないよう心がけたい。