サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会が20日に開幕した。世界的な関心度で五輪をもしのぐ祭典は、五輪と同様に多くの課題を抱える。日本代表の活躍に期待する一方で、W杯の在り方を問う大会になる。
中東での初開催。スポーツ普及の観点からは歓迎すべきだろうが、カタールは国土の広さが秋田県よりやや小さい国だ。この狭い地域に8万人収容のスタジアムを含む7会場を新設、1会場を改修した。ほとんどがエアコン完備だ。会場配置図を一見すれば、大会の異様さがうかがえる。
2010年の開催地決定当時からカタール招致には疑惑がつきまとっていた。国際サッカー連盟(FIFA)の調査報告書では複数の立候補国の中で最低評価だったが、理事会の選定投票で逆転勝利した。投票に向けた買収工作があったともされるが、疑惑の全容は封印されたままだ。
石油、天然ガスの資源で潤う同国の人口は約280万人で、大半は居住外国人が占める。W杯に向けた会場建設やインフラ整備に当たった外国人労働者の過酷な労働環境が人権侵害だとして、欧州などから批判が相次いだ。抗議の声はやまず欧州各国ではパブリックビューイング中止やスポーツバーでの観戦中止の動きが広がっている。
W杯は通常、欧州各リーグのシーズンオフにあたる6~7月に開催されていた。しかしカタールの酷暑を考慮して、11月開幕に移した。シーズンさなかの各リーグはW杯直前まで日程が組まれ、各国の代表選手は調整に苦しんだ。欧州でプレーする日本代表も故障して、交代を余儀なくされた。現場からは開催時期への不満も噴出している。
世界中のファンが待ち望む祭典を前に、批判や懸念が渦巻く状況は残念なことだ。火に油を注ぐ発言もあった。カタール開催を決めた当時のFIFA会長だったゼップ・ブラッター氏はスイスのメディアに「カタールを選んだのは間違いだった。とても小さい国で、サッカーとW杯は大きすぎる」などと語った。
前回の18年大会開催国のロシアは、ウクライナ侵攻により出場禁止処分を受け欧州予選から締め出された。戦時下にあっても予選で健闘したウクライナは、あと一歩で本大会出場を逃した。カタール大会には緊迫する国際情勢も影を落とす。
競技場外を覆う暗雲を払うためにも、ピッチ上の選手たちには最高の技術とフェアプレーによる熱戦を期待したい。
7大会連続出場の日本代表は、これまで最高のベスト16を上回る8強入りを目指す。1次リーグは優勝経験のあるドイツ、スペインと同組だ。両強豪と対戦するドーハ会場は、1994年大会のアジア最終予選(93年)でW杯初出場を逃した因縁の地だ。最終戦の終了間際に失点してW杯切符を失った「ドーハの悲劇」から29年。番狂わせを演じて、成長した日本サッカーの姿を世界に示してもらいたい。
W杯は次回の2026年大会から出場チーム数を現行の32から48に増やす。試合数増による収益拡大が目的だが、力に劣るチームの出場で試合レベルの低下も懸念される。4年に1度の大会を隔年開催に変更する案も検討されていた。世界で最も人気のあるスポーツを統括するFIFAは金権主義に走るのではなく、W杯の価値を守る責任がある。