岸田首相に辞表を提出した後、取材に応じる寺田総務相=20日午後7時50分、首相公邸
岸田首相に辞表を提出した後、取材に応じる寺田総務相=20日午後7時50分、首相公邸

 わずか1カ月弱の間に3人目の閣僚更迭である。岸田文雄首相は「政治とカネ」を巡る問題が相次いで判明した寺田稔総務相を更迭した。

 寺田氏は政治資金規正法を所管する総務相でありながら、ずさんな政治資金の処理の問題が次々と指摘され、野党が辞任を迫っていた。

 問題発覚後も続投させた挙げ句の更迭だ。首相の判断の遅さが今回も繰り返された。任命責任とともに、ここに至るまで決断できなかった首相の責任は極めて重い。

 物価高騰対策や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る被害者救済、新型コロナウイルス感染症の「第8波」など、年末に向けて重要な課題が山積する。首相の判断力で、難題に対処する政策を着実に遂行できるのか。政権担当の資格が問われる事態だと言わざるを得ない。

 寺田氏の他にも「政治とカネ」に関する問題が追及されている閣僚や、旧統一教会との関係が指摘される政務三役、自民党幹部がいる。この際、うみを出し切る抜本的な立て直しが必要だ。政権は国民の信を失う瀬戸際にあると覚悟すべきだ。

 寺田氏を巡っては、関係する政治団体が故人を会計責任者とする政治資金収支報告書を提出していたことが判明。寺田氏は事実を認めて陳謝したが、その後も「政治とカネ」の問題が次々と指摘されてきた。寺田氏は「誤った事務処理が行われた」などと陳謝する一方、自身の関与は否定し、辞任しない考えを示していた。

 首相が更迭を判断したのは、21日から予定される2022年度第2次補正予算案の審議への影響を考慮したためとみられる。だが、更迭しても、国会日程への影響は避けられまい。

 臨時国会の会期末が12月10日に迫る中で、補正予算案に加え、旧統一教会問題を巡る被害者救済新法などの課題もあり、国会日程は非常に窮屈になっている。会期を延長すれば、年末の23年度予算案編成や首相が言明した「国家安全保障戦略」の改定の作業に影響しかねない。深刻な事態だ。

 問題なのは、閣僚の進退に対する首相の決断がいつも遅れることだ。8月の内閣改造以来、旧統一教会との深い関係が指摘されてきた山際大志郎前経済再生担当相が辞任したのは10月になってから。死刑執行について法相の責務を軽んじる発言をした葉梨康弘前法相に対しても、当初は官房長官を通じた厳重注意にとどめ、更迭したのは発言の2日後だった。

 寺田氏も10月初めから政治資金問題が指摘されてきたが、首相は更迭を否定し続けてきた。

 説明責任を果たせない閣僚が招く政治不信や政治とカネに対する厳正さへの認識の欠如が、判断の遅れにつながっているのではないか。国家を担う政権の最も重要な役割は危機管理だ。だが、首相の能力に疑問符を付けざるを得ない。

 葉梨、寺田両氏は岸田派に所属する。特に寺田氏は核軍縮・不拡散問題担当の首相補佐官も務めた最側近だ。「身内」であるために厳しい対応が取れなかったとすれば政治指導者として失格だ。

 首相は19日の記者会見で山積する課題を列挙し、「年末にかけて勝負の時が続く。政権の全ての力を集中させる」と述べた。その言葉を本当に実行できるのか。もはや一切の言い訳も許されない。