経済の相互依存が高まりながら、異なる価値観を掲げて独裁体制を固め、軍事的な威圧を繰り返す隣国と、いかに向き合っていくのか。約3年ぶりとなった首脳会談は、途絶えていたパイプを開ける一定の意義があった一方で、関係改善へ困難さも浮き彫りにした。
岸田文雄首相は中国の習近平国家主席と会談、関係安定化へ協力する方針で一致し、安全保障分野などでの意思疎通を図ることを確認した。ただ冷え込んだ日中関係の立て直しに向けようやくスタートラインについたに過ぎず、言葉だけでなく双方の具体的な行動が求められる。
国交正常化から半世紀、両国間の懸案は数多い。沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海情勢や中国の弾道ミサイル発射に関して、岸田首相は「深刻な懸念」を伝え、習主席は「意見の相違を適切に管理する必要がある」と表明。防衛当局間の「海空連絡メカニズム」の柱となるホットラインの早期運用開始に合意したが、尖閣周辺海域で中国海警局の船の航行が常態化する状況への日本側の警戒感を払拭するのは容易ではない。
台湾問題を巡っては、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した首相に対し、習主席は「中国の内政干渉は認めない」と原則的な立場を崩さなかった。香港の言論封殺や新疆ウイグル自治区の人権侵害でも、日中の溝は深い。いずれもまず中国側が自制、改善しなければならない問題だが、日本側もナショナリズムをあおるだけでいいのか、ある程度の忍耐力を持ちながら、冷静に説得していく粘り強さも必要だ。
とりわけ、核実験も視野に、これまでにない頻度で行われる北朝鮮のミサイル発射、世界経済にも深刻な影響を与えているロシアのウクライナ侵攻の長期化など、安全保障環境は厳しさを増す。
日中両首脳は核兵器を使用してはならないとの認識を共有した。これら進行する喫緊の二つの問題を緩和・解決に導くには、国連などを舞台とした中国の関与、協力が死活的に重要だ。中国が「責任ある大国」(岸田首相)として役割を果たすよう働きかける努力が欠かせない。
世界第2の経済大国に成長した中国にとって、日本は第2の貿易相手国、日本にとっては最大の相手国だ。経済安全保障の観点から、万一に備えたサプライチェーン(供給網)の見直し・整備は当然の政策判断とはいえ、中国を排除するのではなく、国際的なルールの順守を前提に、開かれた経済連携の枠組みに取り込むことも検討すべきだろう。気候変動問題や医療、介護など両国が協力すべき分野も多い。
対立点があるから外交を機能させなければならない。日中間には1972年の国交正常化時の共同声明から、戦略的互恵関係をうたった2008年の共同声明まで四つの基本文書がある。その精神を、双方がいま一度確認したい。
この間に生じた相互の不信感を一つずつときほぐし、山積する課題に成果を出すのは一朝一夕にはいくまい。各レベルでの意思疎通を進めていく重層的なアプローチに加え、独裁体制であるからこそ、トップ同士の直接対話の継続が肝要だ。米中の覇権争いのはざまで、競争的であっても共存・共生していく関係を構築できるのか、岸田外交の真価が試される。