1980年12月8日に突如この世を去ったジョン・レノンにとって生前最後のメジャーステージ出演となったのは、74年11月28日にニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンで開かれたエルトン・ジョンのコンサートへのゲスト出演だった。そのエルトンが82年に発表した追悼曲が「エンプティー・ガーデン(Empty Garden 〔Hey Hey Johnny〕)」。ジョン・レノンを庭師にたとえて喪失感を表現したバラードは、40年たった今でも、聴く者に同じ思いを呼び起こす。
同じ英国出身の2人の深い関係と共演のいきさつはよく知られた話。エルトンは74年、レノンの「真夜中を突っ走れ(Whatever Gets You Thru The Night)」のレコーディングに誘われてデュエットし、ピアノを演奏した。完成した曲の出来を喜んだエルトンは、ビートルズメンバーの中で唯一ソロになってまだナンバーワンヒットのなかったレノンに対し「この曲は必ずナンバーワンになる」と宣言。半信半疑のレノンと「もしナンバーワンになったら僕のショーで共演すること」という賭けをした。

発売した「真夜中を突っ走れ」は74年11月16日、エルトンの予言通りに見事、米ビルボードのシングルチャートの頂点に到達。「インスタント・カーマ」(3位、70年)、「イマジン」(3位、71年)を超えるレノン最高のヒットを記録した。この曲を収録したレノンのアルバム「心の壁、愛の橋(Walls And Bridges)」も同じ日にアルバムチャートを制覇。アルバム「イマジン」(71年)に次ぐ2枚目のナンバーワンアルバムとなった。
賭けに勝ったエルトンに対し、レノンが約束を果たしたのがマジソン・スクエア・ガーデンでのコンサート出演というわけ。レノンにとって72年以来のステージで、絶頂期のエルトンと一緒に、出演のきっかけとなった「真夜中を突っ走れ」、ビートルズ時代の「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ」「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」の計3曲を共演した。
エルトンは当時のことを「ジョンを紹介した時に客席から上がった歓声はすさまじかった。正直言って、デビューしてから今まで、あれほど大きなどよめきは聞いたことがない」「僕もバンドのほかのメンバーも、観客と同じくらい有頂天だった。あの瞬間が、それまでの僕たちのキャリアの頂点だったかもしれない」と、自ら著した『Me エルトン・ジョン自伝』(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)で振り返っている。
翌75年の1月にはエルトンがカバーした「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ」がナンバーワンに。この曲でドクター・ウィンストン・オーブギー(Dr. Winston O’Boogie)の名前でギターを弾いたのはレノンだった。
ジョン・レノンは80年10~11月にシングル「スターティング・オーバー」とアルバム「ダブル・ファンタジー」を発表。久々の音楽活動再開を世界中のファンが喜んでいたところに悲劇が起きた。ニューヨークの自宅マンション前でファンの凶弾に命を奪われた。40歳だった。死後、シングルとアルバムはともにナンバーワンに。「真夜中を突っ走れ」「心の壁、愛の橋」以来の1位だった。
2年後にエルトンが発表した「エンプティー・ガーデン」は、長年コンビを組む作詞家でレノンとも親交のあったバーニー・トーピンの歌詞に、エルトンが曲を付けた。いかにもエルトンらしい重厚かつメロディアスなバラードで、庭師がいなくなった「空っぽの庭(エンプティー・ガーデン)」に託して、ジョン・レノンがいなくなったことの悲しみを歌う。「ヘイ、ヘイ、ジョニー。外に出て一緒に遊ばないか、君の空っぽの庭で(Can’t you come out to play in your empty garden?)」と、切々と呼びかけるさびは、マジソン・スクエア・ガーデンでまた演奏(play)しようよという願いが込められているのだろう。万感胸に迫るものがある。エルトン本人は先の自伝で「僕のいちばん好きな曲の一つだが、ライヴでプレイすることはめったにない。感情があふれてきて、演奏できなくなるからだ」と記している。
この歌はビルボードシングルチャートで13位のヒットを記録。収録するアルバム「ジャンプ・アップ(Jump Up!)」は、「ブルー・アイズ(Blue Eyes)」のヒット(12位)も生み、70年代後半の低迷期を経た80年代エルトンの第2期黄金期の始まりを告げる作品となった。

マジソン・スクエア・ガーデンでの2人の共演は、エルトンのライブアルバム「ヒア・アンド・ゼア~ライヴ・イン・ロンドン&N.Y.(Here And There)」で聴くことができる。74年にロンドンとニューヨークで催したコンサートの模様を収めて76年に発表した作品。オリジナルはレコード1枚全9曲の構成となっており、2人の共演は入っていなかった。ところが、95年に未収録曲を多数追加してリマスター。「真夜中を突っ走れ」など共演3曲を含む2枚組みCD全25曲の豪華版となって再発売され、ファンにはかけがえのない作品となった。偉大な2人のアーティストが仲良く演奏する様子と観客の熱狂が伝わる貴重な音源だ。 (洋)