■Band of Gold
(歌)ドン・チェリー、(作)ジャック・テイラー&ボブ・ミューゼル、ビルボード年間38位。歌っているドン・チェリーは、ゴルファーとしても名が知られていて、歌手の傍らさまざまなトーナメントに出場し、輝かしい成績を残しているのだが、プレー中の瞬間湯沸かし器的な言動をどうにかしたらもっと活躍しただろうなどといわれていた。
この曲は、クラシカルなベースライン、三連の和音を刻むピアノ、ブラシを使った柔らかいスネア、効果的なブラス、加えて「ワ、ワ、ワ、ワー」とハモる定番のコーラスをバックに、ドン・チェリーが気持ち良さそうに、ゆったりかつ力強く歌っているのが印象的。しかし、この歌声を聴いていると、なんとなくではあるが、瞬間湯沸かし器うんぬんというのも理解できる気がしないでもない。もっとも、歌手兼ゴルファーという稀有(けう)な存在に加え、世間的には知り得る由もない激情型気質うんぬんの風聞が頭にインプットされてしまっているからかもしれないが。
■のっぽのサリー
(歌)リトル・リチャード、(作)ヴィンセント・ローズ、ラリー・ストック&アル・ルイス、ビルボード年間45位。この曲のBPM(テンポ)はおよそ150で、56年のトップ50の中ではおそらく最速の曲ではないだろうか。歌っているリトル・リチャードは黒人だが、R&Bというより、これはもう完全なロックンロール。エルビス・プレスリー、ビートルズ、キンクスなどがカバーしたが、個人的に印象に残っているのは、ドリフターズの演奏。昭和41(1966)年にビートルズが来日した際、前座でチョーさんやカトちゃんのいたドリフターズが、あろうことかこの曲を演奏したのだ。ボーカルを取っていたのは、仲本工事さん。ビートルズ見たさにテレビにかじり付いていて、早く本物が見たいとウズウズしていたのだが、「!!!ドリフがのっぽのサリー??」とあっけにとられたものだった。
本物のリトル・リチャードは、スタンディング・ポジションでピアノの前に立ち、鍵盤をたたきながら派手なアクションでシャウトするのが常だった。スタンダードなポップスではついぞ見られなかったスタイルで、これほどパワフルでストレートかつ聴衆をノセるパフォーマンスは新しいムーブメントを予感させるに十分だったに違いない。
■Blueberry Hill
(歌)ファッツ・ドミノ、(作)ヴィンセント・ローズ、ラリー・ストック&アル・ルイス、ビルボード年間41位。この当時、ファッツ・ドミノは、すでにR&B部門でベストセラーを連発していて、「Blueberry Hill」は40年にグレン・ミラー楽団の演奏で大ヒットした曲をカバーしたものだ。ドミノは独特のピアノ奏法でリメークし、ピークで2位、R&B部門では11週連続1位を記録した。若干ジャズの要素が感じ取れるとは言うものの、「のっぽのサリー」同様、このサウンドもロックンロールそのもの。ピアノが奏でるイントロのフレーズは、ドミノらしいラグタイム風やらブギウギ調などが入り混じったかのような印象的なもので、その直後のベースラインは「Band of Gold」と同様クラシカルなものだ。
60年代以降レコーディングの際には演奏と歌は別々に録られることが一般的になったが、この時代は「せーのー」のかけ声で皆が演奏する一発録りも多かったようだ。満足する出来栄えに達するにはかなりの演奏回数を重ねる必要があったようだが、この「Blueberry Hill」では、歌い出しの部分、“I found my thrill”の“I found”の部分がほんのちょっとだけ不安定に聞こえる。恐らく、曲の全体を通じて、歌も演奏も気持ち良くやれたテイクを優先し、小さなことには目をつぶった結果ではなかろうか。あくまで邪推に近い妄想ではあるが。
■The Wayward Wind
(歌)ゴギ・グラント、(作)スタンリー・リボウスキー&ハーブ・ニューマン、ビルボード年間5位。USAにおける元祖ポピュラー・ミュージックともいわれるカントリー&ウエスタン(C&W)のカテゴリーに入る曲。元来素朴な演奏スタイルであるC&Wが、オーケストラの演奏をバックに少しおしゃれになった作風となっていて、あたかも西部劇のテーマミュージックを聞いているかのようなアレンジだ。個人的にはC&Wの味付けを施した質の高いポップス、と捉えている。この曲も女性シンガー、ゴギ・グラントを含めた3組の競作となった。他の2組は共に男性シンガーだったが、ゴギ・グラント盤は圧倒的で、ピークで6週間も1位にとどまるほどのヒットだった。
■Allegheny Moon
(歌)パティ・ペイジ、(作)アル・ホフマン&ディック・マニング、ビルボード年間24位。以前からよくあるスタンダードな作りのポップスで、ゆったりとした3拍子の曲。いつの頃からか、こういうリズムの曲が少なくなってきたと感じるが、この時代では珍しくなく、56年のトップ50のうち8曲は3拍子のリズムだった。今日ではこのリズムはリラックス効果が高いといわれているが、それは心臓の鼓動もやはり3拍子だからなのだとか。
50年には同じ3拍子の曲「テネシー・ワルツ」が、ポップス、C&W、R&Bの三つの部門で同時に1位となり、一躍この時代を代表する女性シンガーと評されたのだが、彼女は同時にオーバーダビングにチャレンジしたエポックメイキングな存在でもあった。主旋律を歌唱する一方で、複数のコーラス・パートをも自ら担うという多重唱録音に取り組み、それは48年の“Confess”や49年“With My Eyes Wide Open, I’m Dreaming”などで聴くことができる。バッチリ決まったひとりコーラスは“The Patti Page Quartet”とレコード・ジャケットにクレジットされていた。
(オールディーズK)