島根県は子育てしながら働く女性の割合が高い。家庭では夫婦が協力して家事や子の世話をし、職場は男女ともに柔軟な働き方ができるよう環境を整えることが求められる。10月に男性の育児休業取得を促す制度「産後パパ育休」が始まったこともあり、県内企業が妊娠や子育て家庭への理解を深めている。 (山口春絵)
「おなかが重くて普段通りに動けない。妊婦をいたわらないといけない」。自動車販売のマツダオートザム松江(松江市西尾町)であった島根県助産師会の講座。妊婦の体を体験できるジャケットを着た男性が、率直な感想を発表した。
妊娠中は高血圧や貧血、気分の落ち込みといった心身の不調が起きやすい。産後は体の痛みに悩まされたり、育児負担が集中して疲労感を募らせたりする。講座では助産師が社員15人に向け、男性は育児や家事を「手伝う」感覚ではなく、「協力する」ことで家庭が円満になると説明した。
講座は県が企画。企業に助産師を派遣し、男性に育児や家事への協力を促して、経営者の意識や職場の風土を変える後押しをする。希望した5社が10月から受講し、妊娠に伴う女性の心身の変化や職場に必要な配慮を学んでいる。
講座の背景には、県内は育児をしている女性の有業率が2017年時点で81・2%(全国平均64・2%)と高く、共働き家庭が多いことがある。ただ、育児休業を取得した男性労働者は、県の調査で20年に2・5%と圧倒的に少ない。
新型コロナウイルス禍も産後の母親に大きな影響を及ぼしている。神奈川県立保健福祉大学が全国の産後1年以内の産婦600人を対象に、21年秋に実施した調査によると、コロナ禍で出産・育児した産婦の28・7%が産後うつ状態にあり、コロナ禍前の14・4%に比べて大幅に増えた。
核家族化が進む中、離れて暮らす家族から産後のサポートを受けられないことなどが影響しており、感染予防による制限で、子育てへの夫の協力がこれまで以上に重要になっている。
そのためには男性や職場の意識改革が欠かせない。マツダオートザム松江には妻が妊娠中の男性社員がおり、坪倉理子総務部長(49)が育休を打診すると、職場の負担になると遠慮した。これを機に、社全体で妊娠・出産や育児に理解を深めようと受講した。
実現すれば、男性社員の育休は同社で初めて。坪倉総務部長は「取得が当たり前になれば、当事者が申し訳ないと思うこともない。経営側も変わらなくてはいけない」と話す。
10月に始まった育児休業を計4週まで2回に分けて取れるなどの分割取得や休業中の就業も可能な「産後パパ育休」は、男性や社会が子育てを女性に任せきりにしないための第一歩になる。県助産師会の加瀬部洋子さんは「仕事を『お互いさま』の気持ちで分担できれば、誰もが休みやすい。社員のライフイベントは働き方を見直す機会になる」と呼びかける。