工房の片隅で、美味しそうにごちそうを頬張る猫たち―。実用性と美しさを併せ持つ「用の美」を追求した陶器が人気の出西窯(出雲市斐川町出西)が、猫用の食器「キャットボウル」を開発した。70年を超す歴史の中で、人間以外のための陶器を作るのは初めてという。人々の暮らしに根差し、実用に徹してきた窯元が、なぜ猫用の器を? 伝統を改めて、昨今のペットブームに乗っかったのか、それとも…。窯元を訪ねて、背景を取材してみた。(Sデジ編集部・宍道香穂)
4月下旬、新緑の中、田園風景の中に佇む工房を訪ねた。迎えてくれたのは、開発者の中鉢(なかはち)耕助さん(41)。この道16年目のベテランで、出西窯の役員も務める。工房の看板猫、クウちゃん(オス)とその母チャチャも一緒だ。
早速、中鉢さんに実物を見せてもらった。高さ14cmの土台の上に直径15~16cmの円形の皿が乗った器。まるで平安貴族の宴会に出てきそうな食器。
色は、窯元を代表する「出西ブルー」と呼ばれる瑠璃色、黒色、飴色の三色で、落ち着いた色合いだ。モダンな雰囲気で、インテリアとしてもおしゃれだ。一方で、実用性については疑問が生じる。食べている最中に倒れたら割れてしまわないか。そもそも陶器である必要はあるのか。
「友人」との別れ
そこで「なぜ、キャットボウルを作ろうと思ったんですか」と質問。中鉢さんは、以前共に暮らした愛猫・エドとの思い出を話してくれた。「友人とか兄弟のような存在だった」というエドは3年前、...