島根県西部の伝統芸能・石見神楽に打ち込む若者が集い、学校内で舞を披露する取り組みを始めた。新型コロナウイルス禍で神楽に触れる機会が激減する中、同世代の関心を喚起し、舞の魅力を再認識してもらおうと浜田市内の18歳の兄弟が企画。「舞が好きで仕方がない」という熱い思いが伝統をつなぐ一歩になると、市内の神楽関係者も取り組みを見守る。 (青山和佳乃)
学校内での上演は、神楽面工房「神楽処(かぐらどころ)神伝(じんでん)」(浜田市浅井町)を営む双子の兄弟、竹原倫希(もとき)さん(18)と和希(ともき)さん(18)が中心。2人は面制作の傍ら、後野神楽社中で舞い手としても活動しており、7月に浜田ろう学校(浜田市国分町)の関係者から「子どもたちが神楽に触れる機会をつくりたい」と公演の依頼を受けた。
感染拡大で2020、21年は披露の場が激減。秋の奉納神楽のほか商業施設や道の駅での定期公演が中止となり、軽快な八調子が遠ざかる状況に2人もさみしさを感じてきた。
幼い頃から夢中で打ち込んできた兄弟は神楽に育てられ、人として成長できたと振り返る。依頼を受け「恩返しをしたい」との思いから同年代の仲間に声をかけ、後野神楽社中や石見神楽美川西神楽保存会などから舞い手ら4人が集結。子どもたちに人気の演目「恵比須(えびす)」を選び、学校や仕事の後に練習を重ねた。
本番の12日は、浜田ろう学校の体育館で乳幼児と小学部児童の前で舞を披露。タイを釣るユーモラスなしぐさで笑いを誘い、あめ玉を配り喜ばせた。面の制作工程の説明や恵比須役の体験の時間も設けた。倫希さんは、今後の活動の励みになったとし「子どもたちの心をいつまでも神楽とつなぎたい」と話した。
人口減少が顕著な県西部では、人気社中といえども後継者の確保が課題。コロナ禍による子どもたちの関心低下を懸念する声は多い。2人の取り組みへの注目度は高く、後野神楽社中の虫谷昭則代表(75)は「うれしい跡継ぎができた」と喜ぶ。
公演は依頼があれば場所を問わず引き受けたいとし、学校や仕事の都合がつくメンバーが交代で参加する。問い合わせは倫希さん、電話090(8223)2794。