自民党税制調査会の非公式の幹部会合であいさつする宮沢洋一会長。左は浜田防衛相、右は鈴木財務相=14日午前、東京・永田町の党本部
自民党税制調査会の非公式の幹部会合であいさつする宮沢洋一会長。左は浜田防衛相、右は鈴木財務相=14日午前、東京・永田町の党本部

 東北復興を願う国民の気持ちを「流用」し、戦争の反省から設けた財政の歯止めはなし崩し、そして自らの前言と政策の矛盾を気にかけない首相―。防衛費増額の財源を巡る政府、与党のありさまは国民の政治不信を一層深刻にした。国民を軽視した政治の身勝手は通らない。

 政府、与党は5年間で総額43兆円へ増額する防衛費の財源確保策をまとめた。2027年度以降の法人、所得、たばこの3税による計年1兆円強の増税が柱で、与党税制改正大綱に盛り込んだ。このほか歳出見直し、決算剰余金、国有財産売却益などの資金を充てる。

 国民の気持ちをないがしろにしたとしか言えないのが、東日本大震災の復興特別所得税の枠組みを使った、新たな防衛目的税の創設である。

 復興財源のための所得税の上乗せをほぼ半分に減らし、その分を新税へ流用することで2千億円程度を確保する。両方を合わせた負担は今までと変わらず、税を課す期間を延長することで復興財源の総額は減らないと政府と与党は説明する。

 だが、これはまやかしだ。賃金が増えない中でも国民が復興税を受け入れてきたのは、被災地の早期再生を望めばこそである。そのすり替えはもってのほかだ。新税分はそのまま増税であり「個人の所得税の負担が増加する措置は行わない」とした岸田文雄首相の発言との矛盾は明らかだ。

 法人税は、税額に4%程度を上乗せし約7千億円の税収を見込むが、軽減措置により中小企業の大半は対象外となる。

 安倍政権下で法人税減税が実施された点や、賃上げと投資を抑えて「内部留保」を増やした会社が少なくない点を考えれば、税の負担増はまず大企業に求めて当然だ。

 政府は、自衛隊の施設整備費の一部を建設国債による借金で賄うことも決めた。これまで防衛費は「消耗的な性格を持つ」(1966年の福田赳夫蔵相国会答弁)として国債を認めてこなかった方針の大転換である。

 財政法が国債の使途を公共事業などに限っているのは、野放図な戦費調達により財政危機を招いた先の大戦への反省があるためで日銀による国債引き受けの禁止と並ぶ健全財政の要だ。

 それを財源集めに窮したからと放棄するのではご都合主義が過ぎよう。首相は国債の選択肢は「未来の世代に対する責任として取り得ない」と明言していた。これでは子どもたちへの背信だ。

 防衛財源を巡る問題の根本原因は国内総生産(GDP)比2%、5年で43兆円と身の丈に合わない規模を最優先にしたからにほかならない。

 にもかかわらず政府、与党から巨額歳出をいさめる声はついぞ聞かれなかった。それどころか、増税は避け国債で賄うべきだとの自民党の「借金大合唱」を見るにつけ、国民の不信感はより深まったに違いない。

 空前の予算増大と国民負担を求めながら、財源捻出のもう一つの柱である歳出見直しに関連して「身を切る改革」の提案が、首相や与党から皆無である点は理解し難い。

 議員歳費とは別に月100万円が支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の是正をはじめ歳費減額、議員宿舎の返上、そして政党交付金の見直しと候補は山ほどある。巨額歳出と負担に見合わずとも、頬かむりは許されない。