「さくら名所100選」の一つとして有名な倉吉市の打吹公園。鳥取県中部で生まれ育った身にとって懐かしい場所だ。桜の季節が訪れると、公園から見下ろす場所にある成徳小学校(倉吉市仲ノ町)の児童がうらやましかった。
市中心部にある学校ながら人口減少にあらがえず、児童数は現在119人。市は約7キロ北西に位置する灘手小学校(同市尾原、33人)との来年4月の統合と、その後の成徳小校舎の活用を決めた。ところが統合後の新校名を巡って異例の事態に陥っている。
公募で寄せられた341件(119案)を基に、学校統合準備委員会が6月、「この上ない誠実さ、まごころ」という意味を持つ「至誠」に決めたものの、その後、地名を取った「打吹」が最多の150件で、至誠は1件だけだったことが判明した。
決定の経緯が不透明で納得できないとして、選定のやり直しを訴える市民団体が、開校を定めた関連条例廃止を求めて署名活動を始め、今月9日、4815人分の署名を広田一恭市長に提出。市議会への学校設置条例廃止案提出を直接請求した。
倉吉市での直接請求は1971年以来で、約半世紀ぶり。19日に市長からの条例廃止案提出を受けて、市議会が選定やり直しの可否を判断することになる。
どうして、こんな事態になったのか。ポイントとなったのは、来春統合の準備を進める上でタイムリミットと位置付けた、6月6日の準備委員会だった。
統合する小学校の校区にある成徳地区と灘手地区の委員が、それぞれ候補1案を持ち寄り、2案で協議した。ただ、そこではまとめ切れず投票へ。結果は成徳地区が推す「至誠」が8票、灘手地区が推す「打吹」が8票で同数に。要綱に従い、最終的に成徳地区から出た委員長の採決で「至誠」に決まり、灘手側から異議はなかったという。
桜の花びらで例えるなら、「打吹」色に覆われた150枚の数を選ぶのか、あるいは「至誠」色の一点豪華な1枚を選ぶのか-。好みが分かれるのは仕方あるまい。
今回の公募について市側は「投票ではなくアイデア募集。どの案に何件集まったかではなく、委員が思いつかない多様な校名を広く募集することが目的だった」と説明。校名は応募数の多さにより決定するのではなく、応募作の中から準備委が決めることが、事前にチラシや市のホームページ(HP)に記載されており、落ち度は見当たらない。
ただ、こうして異論が噴出するのは、そうした規定が周知されていなかったことと、「至誠」という名称に、「数の論理」を押し出す人たちを納得させるほどの魅力がなかったということだろう。
HPには両校の保護者から寄せられた意見も公開されている。
<私も打吹に一票入れたので、多数だった意見がなぜ駄目だったのか納得できない。民主主義を教えるはずの学校で、強力な一票の力が勝ってしまうのはおかしい>
<大人が地区で争っている姿を子どもに見せ、何が統合なのかと疑問に思う。決まったことをスケジュール通りに行ってほしい>
<子どもを通わせるのが不安。1年延期してもいいので、全てがしっかり決まってから統合してほしい>
それぞれの言い分は分からなくもない。だが、何かが足りない。当事者である両校児童の声がほとんど聞こえてこないのだ。大人の思惑ばかりが強調され、肝心な子どもたちが置き去りになっているような印象を抱いてしまう。
いっそのこと、両校の全児童による投票で決めてはどうか。大人たちの争いの末に決まった、一度ケチが付いた校名を押し付けられるより、自分たちが選んだ名前として、卒業後もずっと心に残るだろう。いずれにせよ、思わぬ争いに巻き込まれて困惑する児童たちには、気持ちよく来春の桜の季節を迎えてほしい。
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