安保関連3文書を閣議決定し、記者会見する岸田首相=16日午後、首相官邸
安保関連3文書を閣議決定し、記者会見する岸田首相=16日午後、首相官邸

 中国の軍事動向を「最大の戦略的な挑戦」と位置付けた「国家安全保障戦略」など安保関連3文書が閣議決定された。米政府は防衛力増強を「日米同盟の強化」として歓迎しているが、中国は強い反発を示した。

 米中の覇権争いの中で、日本は中国国内の基地なども想定した反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を明記した文書で、米国と共に武力で対抗する姿勢を鮮明にした。日中関係がさらに悪化し、対立の長期化も懸念される。

 最悪のシナリオは、日米などと中国の軍拡競争が激化し、東アジアの平和と安定が損なわれることだ。確かに中国の軍備増強は周辺国地域にとって深刻な懸念材料だ。日中は対話を通じて安全保障に関する疑念の払拭に努め、軍縮と共生の道を目指すべきだ。

 中国の習近平国家主席は今世紀半ばまでに米国に比肩する近代化された「社会主義強国」をつくり上げることを国家目標に掲げ、「世界一流の軍隊」保有を目指す。

 中国の国防費は米国に次ぐ世界2位で、日本の約4・8倍。核・ミサイル戦力など軍事力を急速に増強し、昨年はミサイル防衛(MD)で迎撃が困難な極超音速兵器の発射実験を行ったとみられるほか、今年は3隻目の空母を進水させた。米国防総省によれば、中国の核弾頭は2035年には約1500発に増える公算が大きいという。

 台湾への軍事威嚇も日常化し、8月、ペロシ米下院議長訪台に反発した中国は日本の排他的経済水域(EEZ)を含む台湾周辺へミサイルを発射する大規模な軍事演習を行った。安保文書は「地域住民に脅威と受け止められた」と指摘した。

 安保文書は台湾有事への警戒にも触れ、日米豪印(クアッド)や日米韓の枠組みで連携。北大西洋条約機構(NATO)との協力も強化し、27年度の防衛関連予算をNATO加盟国の目標と同水準の国内総生産(GDP)の2%にするとした。

 中国外務省の報道官は安保文書について「中国の国防と正常な軍事活動を理不尽に中傷しており、断固反対する」「台湾問題は中国の内政で、外部勢力の口出しを容認しない」と述べた。

 中国の軍備増強に即して、日本が防衛態勢を見直す必要はある。だが、対中抑止力の強化が挑発となる恐れもある。中国は米国主導の「アジア版NATO構築」を強く警戒する。日本が平和国家と専守防衛の理念を放棄したとみれば、なおさらだろう。安全保障のジレンマから、中国が日本と同様に軍事費を倍増させれば、比率は今の1対5と同じでも、実額差は2倍に広がる点にも留意すべきだ。

 11月、岸田文雄首相は習氏との初の対面会談で、建設的で安定した関係づくりに合意した。林芳正外相が年内に訪中し、王毅外相と会談する方向で調整中だ。会談では安保文書が重要な議題になるだろう。林氏は中国の脅威が文書改定につながった点を説明し、軍縮を求めるべきだ。

 安保文書は安全保障のための国力として第一に「外交力」、第二に「防衛力」を挙げる。日本は米国一辺倒ではなく、独自の外交で隣接する中国に相対するべきだ。50年前の日中国交正常化の共同声明で両国は恒久的な平和友好関係の確立と武力放棄に合意した。原点に戻り、真の善隣友好を構築してほしい。