初心者向けの手話、山陰地方の地名の手話などを、島根県聴覚障害者情報センターの陶山智詠さん(写真)らに教えてもらった=松江市東津田町、いきいきプラザ島根
初心者向けの手話、山陰地方の地名の手話などを、島根県聴覚障害者情報センターの陶山智詠さん(写真)らに教えてもらった=松江市東津田町、いきいきプラザ島根

 中途失聴をテーマの一つとしたテレビドラマ「silent(サイレント)」の影響で注目を集めている手話。表現の豊かさが魅力との声もあり、習得したい人は増えているのではないだろうか。初心者向けに日常生活でよく使う手話や自己紹介で使える手話を教えてもらった。(Sデジ編集部・宍道香穂)

 

 島根県聴覚障害者情報センターの陶山智詠(ともえ)さんと、島根県ろうあ連盟の大瀧浩司さんに教えてもらった。陶山さん、大瀧さんはともにろう者で、ろうあ者の相談や情報発信、福祉の授業での講師などを務めている。

 2人によると、同じ単語でも地方により手話が違う場合があるという。今回は陶山さんや大瀧さんが日頃、使っている手話や基本的な手話を中心に教えてもらった。

県ろうあ連盟の大瀧浩司さん(左)に手話を習う記者

▽初心者向けの手話を紹介
 まずは日常生活でよく使う、あいさつをいくつか教えてもらった。友人など親しい間柄では手話を使わず、片手を軽く上げる動作であいさつする場合もあるという。今回は初対面の相手などに使える、基本的なあいさつの手話を教えてもらった。

 「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」といったあいさつは全て、会釈の動作と手話を組み合わせる。「おはようございます」は右手を握り、顔の横で上から下に動かしてから会釈する。「こんにちは」は額の前で人さし指と中指をそろえて立ててから、「こんばんは」は両手を広げ、カーテンを閉めるように顔の前で交差させてから、それぞれ「おじぎ」のジェスチャーをする。

「名前」の手話

 次に、自己紹介で使える手話を教えてもらった。名前は漢字に該当する手話や、日本語の50音をそれぞれ指の形で表す「指文字」を組み合わせて表現する。

 「はじめまして」は片手の甲をもう片方の手でつまむような動きをしてから、両手の人差し指を立てて向かい合わせる。「私の名前は」は自分を指さしてから左胸の前で、右手の親指と人差し指で輪を作る。「よろしくお願いします」は片手で鼻の前にこぶしを作ってから、手刀を切るような動きをする。

▽山陰の地名や観光スポットも
 せっかくなら、自己紹介をする時に出身地や地元の紹介もしたい。山陰両県の地名や観光スポットの手話を教えてもらった。「出身」は、両手でおなかの前を払うような動きをする「生まれる」の手話と、片手でおわんのような形を作る「場所」の手話で表す。

「島」の手話。片手で島を、もう片方の手で島の周りの海を表現する

 まず「島根」は、両手で「島」の形を表す手話の後に、指を下に向けて木の根を模した「根」の手話をする。「鳥取」は、手で鳥のくちばしの形を作った後、片手で物をつまみとる動きで「取」を表す。「鳥」と「取る」をキャッチーに表現した動きがかわいらしく、覚えやすい。

 「出雲」は両手を横にねじるようにして、出雲大社のしめ縄を表す。しめ縄のジェスチャーの後に両手をパンパンと合わせ、参拝の動きを加えると「出雲大社」の手話になるという。場所や物の特徴をよく捉えていて分かりやすいと感じた。
 「松江」は裏向きのピースを作り、指を頬に当てるような動きで「松」を表し、指文字の「え」を作る。米子は指で小さな輪を作る「米」の手話と、指文字の「ご」で表現する。

「松江城」の手話の一部

 「松江城」は「松江」の手話の後に、両手の人差し指を鍵かっこのように曲げて、城の屋根を表す。「鳥取砂丘」は「鳥取」の手話の後に「砂」と「丘」の手話をする。「砂」は両手の指を前に向けてくしゃくしゃと動かし、さらさらとした砂を表す。「丘」は両手を前側に、滑らせるように下げてなだらかな斜面を表現する。

▽簡単な会話できる人増えて
 島根県聴覚障害者情報センターは毎週水曜、午後0時45分から55分までの10分間、事務所がある「いきいきプラザ島根」(松江市東津田町)で手話講座を開いている。講師は陶山さんが務め、参加者は自己紹介や季節にまつわる手話、動作を表す手話などを学べる。

取材に応じる陶山さん

 陶山さんによると「テレビドラマ(サイレント)の影響かどうかは分からないが、ドラマの放送前は3~4人程度だった受講者が、放送後は10人程度に増えた」。実際に「ドラマがきっかけで(教室に)来た」と話す人もいるという。新しいことを始めるのは勇気がいるが、簡単な手話を気軽に教えてもらえる場があると、背中を押してもらえそう。

 今後、手話を習得したいと考えている人に向けて大瀧さんは「ぜひ手話を勉強していただいて、私と一緒に手話で話をしていきたいと思う。みなさん一緒に(手話の勉強を)頑張っていきましょう」とエールを送った。陶山さんは「私たちろう者が一番困るのは災害の時。手話ができる人がいないとコミュニケーションを取ることが難しい。簡単な手話から覚えてもらい、簡単な会話ができる流れが広まっていくといいなと思う」と期待をこめた。