公的年金額が4月分から引き上げられる。年金の増額改定は3年ぶり。ただし引き上げ幅は物価上昇には追い付かず、実質的には目減りする形となる。年金給付の伸びを抑える仕組みが実施されるからだ。政府は年金受給者の納得を得られるよう、この仕組みの効果と意義について説明を尽くす必要がある。

 厚生労働省によると、自営業者らが入る国民年金は現在、40年間保険料を納めた満額で月6万4816円。2023年度は67歳以下の人で月1434円増え、68歳以上の人では月1234円増える。引き上げ幅で見ると、それぞれ2・2%、1・9%のアップとなる。

 だが食料品や光熱費などの大幅な値上がりを受け、年金額改定の指標となる22年平均の消費者物価指数(生鮮食品を含む)は2・5%上がっている。それなのに、年金の引き上げ幅は物価上昇率に届かない。

 「おかしいじゃないか、年金は物価高に連動して増えるのでは」。そんな疑問を抱く受給者も少なくないだろう。確かに、物価や賃金の動きに合わせて年金額を改定するのが基本的なルールだ。しかし04年の年金制度改革で、少子高齢化に応じて給付の伸びを抑制する「マクロ経済スライド」の仕組みが導入された。

 現行の年金制度は、現役世代が納めた保険料を主要な財源として、高齢者向けの給付を賄う「仕送り方式」となっている。このため少子化で「支え手」が減る一方、仕送りを受ける側が増え続けると、年金財政の収支バランスが悪くなる。

 そこで、物価や賃金が上がり年金が増える局面では給付の伸びを抑え収支のバランスを図ることにした。少子高齢化が進む中で年金制度の持続可能性を維持するには、こうした給付抑制は避けられない措置と言える。

 マクロ経済スライドを実施する際は、現役世代人口と平均余命の変化を基に「調整率」を算出し、基本ルールに基づく年金額改定率から調整率分を差し引く。23年度の調整率は計0・6%。スライド実施により年金は67歳以下で0・3%、68歳以上で0・6%、それぞれ実質的な価値が目減りすることになる。

 高齢受給者にとって年金の目減りは厳しいに違いない。だが給付抑制で年金財政は改善し、未来の受給者である将来世代の給付水準が低下するのを防ぐ効果がある。これからの社会保障の支え手となる将来世代を応援する仕組みであることを忘れないようにしたい。

 年金制度は世代を超えた助け合いで成り立っている。年金暮らしの方々も、今回の改定を「給付カット」と受け止めるのではなく、孫やひ孫への「仕送り」と考えるわけにはいかないだろうか。

 実のところ04年改革時の想定に比べ、現在の給付水準は高くなっている。デフレ時にマクロ経済スライドを発動しない決まりがあり、過去3回しか給付抑制が機能していないためだ。収支のバランスはその分崩れており、つけは将来世代に回る。望ましくない状態だ。

 物価高が続けば今後も年金の目減りが繰り返される。将来世代のために必要な措置とはいえ割り切れない思いの高齢者も多いだろう。だからといって、政府、与党が「給付抑制分の穴埋め」などと称して現金を配るようなことは制度の趣旨を無にするものであり、あってはならない。