自民党は特命委員会で防衛費増額を賄う財源の議論を始め、焦点に国債償還ルールの見直しが浮上している。だが償還期間の延長やルール廃止は財源につながらず、国債発行による借金が減ることもない。かえって債務償還への規律が緩み金融市場で財政への信認を低下させる恐れがある。慎重に扱うべきだ。
政府は昨年末、防衛力の抜本強化のため2027年度までの5年間の防衛費を43兆円へ大幅に増やす計画を決定。27年度に必要となる4兆円の追加財源のうち1兆円強を増税で、残りを歳出改革や決算剰余金の活用で賄う枠組みとした。
ただ、国債発行による積極財政を主張する自民党内勢力の強い反発などで、増税の実施時期は「24年以降の適切な時期」とするにとどまり、結論を先送りした。
特命委は財源確保策を再検討することで、国民に不人気な増税の回避や圧縮につなげたい思惑とみられる。そこで議論に上っているのが国債の「60年償還ルール」の見直しである。
国債による借金を60年かけて返済する仕組みで、建設国債の発行が始まったのを機に、道路や建物の平均的な耐用年数を参考として1960年代半ばに定められた。
具体的には毎年度、国債残高の約60分の1に当たる金額を一般会計から国債を管理する特別会計へ繰り入れ、特会で新たに国債を発行して得た資金と合わせて、満期国債の償還に充てている。国債残高が1千兆円規模に増大した影響で、一般会計からの繰り入れは2023年度予算案で約16兆7千億円に上る。
特命委では、国債の償還期間を60年から延長して毎年度の繰り入れを減らしたり、繰り入れをやめたりすることの是非が議論される見通し。しかし、いずれも一般会計の国債発行は減るものの、その分、特会での発行が増えるだけだ。防衛費の財源になり得ないのは自明だろう。
積極財政派の中には海外に同様の償還規定がない点を挙げてルールの撤廃を求める声がある。だが米欧は法律や条約で国の債務残高を縛るなど日本より厳しい財政規律を設けている。
赤字国債は当初、60年ルールの適用外だったが発行・償還増につれて1980年代半ばから対象となり、それが国債発行への抵抗感を希薄にしたと指摘される。
60年ルールは最低限の財政規律であり、むしろ厳格化を求めていいくらいだ。仮に期間を80年へ延ばした場合、公共資産の耐用年数が過ぎ、恩恵を受けられない将来世代にツケを回すことになる点を忘れてはならない。
内閣府による最新の中長期財政試算は、防衛支出の大幅増が日本の財政に重荷としてのしかかる姿を明らかにしている。
財政の健全度を表す基礎的財政収支(プライマリーバランス)は、高めの成長を仮定しても政府の黒字化目標である2025年度に1兆5千億円の赤字となり、昨年夏の試算から悪化。大きな要因は防衛費増にある。
低成長では赤字が慢性化し、国・地方の債務残高が30年度に1300兆円を超えると予測した。長期金利が上昇すればさらに悪化の恐れがある。
わが国の危機的な財政状態を理解するならば、償還ルールの見直しではなく、防衛費を適正水準に収めるなど歳出の規律づけを議論する時だ。