新型コロナウイルス対策としてのマスク着用を大幅緩和する政府の新たな指針がまとまった。全員の着席が可能な新幹線や高速バスでは外すのを容認、学校現場でも着用を求めないことにした。ただ混雑した電車やバスの乗車時のほか、家族に感染者がいたり医療機関や高齢者施設を訪問したりする場合などは引き続き着用を推奨する。
新指針の適用は3月13日からで、学校は4月1日の新学期以降だが、その前に開く卒業式には児童生徒がマスクなしで出席できるようにした。
コロナ禍での暮らしは約3年に及び、教室では授業中もクラス全員のマスク着用が当然の光景になった。今春卒業する中高生は入学時から同級生の素顔をほとんど知らないままだけに、「せめて卒業式ぐらいマスクを外せるように」との声が出るのはうなずける。大切な記念日であることを踏まえ、時宜を得た配慮と受け止めたい。
新指針は、大型連休明けから新型コロナの感染症法上の位置付けを季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げ、それに伴って国民が「脱マスク」に進むことを見越したとも言える内容だ。
だが第8波の1月の死者は計9千人を超えるなど、感染の流行は依然として深刻で、数年は人口の数%が常時感染する状態が続くとの試算もある。政府から「警戒を緩めてよい」とのメッセージを安易に出せる状況にないことは明らかだ。
卒業式に関しては式典中、児童生徒同士が会話することはほぼないと思われるが、校歌や国歌の斉唱をノーマスクでした場合はリスクが高まるのは否めない。事後に感染が広がる事態になれば未着用の是非が問われかねない。現場の教員からは「対策が緩んだら校内は感染爆発すると思う」との声も出ている。
とりわけ高齢の家族と同居していたり基礎疾患を抱えたりする児童生徒は不安を拭えないはずだ。学校側は指導に当たり、一人一人の置かれた状況に留意し、自由意思を損なうことのないよう柔軟に判断してもらいたい。
新型コロナの流行当初から、政府は基本的な感染対策としてマスク着用を求めた。昨年5月には屋外では2メートル以上の距離を確保できない場合でも、会話をほとんど行わなければ不要との考えを示しつつ、屋内では着用を推奨。こうした中、コロナ禍の社会を象徴するかのようにマスクが日常生活に定着。今や思春期の子どもだけでなく大人でも素顔を出すことに気恥ずかしさを覚える人が少なくないのではないか。
5類移行と脱マスクは、ウィズコロナへの本格的な局面転換を意味する。ただウイルスは変異を重ね、重症化しにくくなったとはいえ強い感染力で今後も流行を繰り返す可能性は高い。ウィズコロナとは、文字通りウイルスと共存しつつ経済社会を平常化することだ。
政府が「個人の判断に委ねる」としているように、これからは行政による行動制限や医療措置に頼らず自分の身は自分で守ることが基本になる。であればこそ脱マスクを押し付けるようなことはあってはならない。
特に集団行動を基本とする学校というコミュニティーでは、児童生徒らの間で着ける着けないを巡って陰湿ないじめなどを招かないか心配だ。国民生活への影響について、政府には今後も十分な目配りを求めたい。












