日産自動車が仏ルノーとの資本関係を見直すことで合意した。20年以上続いたルノー優位が解消され、両者は対等な関係で提携を続ける。日産は経営の自主権を取り戻すことになるが、それだけでは「100年に1度」とされる自動車の変革期を乗り切れない。
生き残りの鍵を握るのは電気自動車(EV)の開発だ。それには異業種を含めた幅広い企業との連携が欠かせない。日産が出資する三菱自動車を加えた3社連合は保有する知的財産権や技術を総動員し、合従連衡による成長の道を探ってほしい。
2兆円の負債を抱えた日産がルノーに救済されたのは1999年のことだ。米クライスラーとの提携交渉が挫折し、破綻寸前に陥った時に手を差し伸べてくれたのがルノーだった。
カルロス・ゴーン氏の改革で息を吹き返した日産は、世界に先駆けて量産型のEV「リーフ」を発売し、底力を見せた。ルノーは日産との経営統合を望んだが、ゴーン氏が巨額の報酬を巡り逮捕され失脚すると、日産の経営は混乱した。
この間に日産・ルノーは自動車業界で世界のトップを争う地位から脱落。EVでも米テスラや中国メーカーに大きく後れを取った。トヨタ自動車が2008年のリーマン・ショックを乗り越え、成長を続けたのとは対照的な歩みだった。
日産の世界販売台数はルノーの1・6倍に上り、日産経営陣は出資比率の見直しによる対等な関係への移行を望んでいた。ルノーがこれを受け入れたのは、新たに設立するEVの会社に日産の知的財産権や技術を円滑に導入するためだ。
日産はルノーの新会社を通じ、自動運転やセンサーなどの技術が第三者に渡るのを警戒していたが、技術革新の必要に迫られ協力姿勢に転じた。EVの新会社に日産も15%出資し、特許の利用も認める。三菱自動車もいずれ資本参加する。
欧州ではEVへの移行を促す規制が設けられ、中国も自動車産業で日米欧を逆転するため、EVを後押ししている。日本国内や米国でトヨタに水をあけられた日産が巻き返すには、急ピッチで成長するEV市場で再び存在感を示すしか手段は残されていない。
協力する相手は自動車メーカーに限らない。ルノーの新会社は米国の半導体企業やグーグルとも提携する。日産や三菱自動車にとっても得るところが大きいはずだ。国内勢ではホンダがソニーと組んで次世代車の開発を急いでいる。社長交代を発表したトヨタもEV開発をこれまでより加速するだろう。
自動車に必要な機能や構造を抜本的に考え直すのが世界の潮流になっている。自動運転やITを使った新サービスの開発は待ったなしの課題だ。
日産・ルノーは名門意識や主導権争いにこれ以上、とらわれてはならない。デジタル技術を中心とした提携先を広く求め、先進的な車づくりに集中する必要がある。
自動車各社は国内にも素材、部品の取引先や下請けの加工メーカーを数多く抱えている。日産の浮沈は各地の企業の雇用に影響を与えるだろう。
産業転換の荒波を乗り切るのは容易ではない。日産・ルノーには、電池やITへの投資を軸に、サプライチェーン(供給網)全体が「脱ガソリン車」へ円滑に転換できる経営を求めたい。