孤独・孤立対策のため大阪府高石市で行われている戸別訪問=2022年11月(同市提供)
孤独・孤立対策のため大阪府高石市で行われている戸別訪問=2022年11月(同市提供)

 高齢の1人暮らし世帯が増えている。内閣府によると、65歳以上の単身者は2020年時点で全国に約671万人。20年間で2・2倍になった。団塊ジュニア世代が65歳以上となる40年には約900万人になる見通しだ。

 誰しも年を取るにつれ介護や貧困といった不安が増すのは自然なこと。独居だと他者との関わりも減りがちだ。周囲の支援が受けにくくなれば、生きる気力も薄れてしまいかねない。

 こうした中で政府は昨年末、「孤独・孤立対策の重点計画」を改定し、単身高齢者への対応に力を注ぐ姿勢を鮮明にした。「単身世帯や単身高齢世帯の増加が見込まれる中で、孤独・孤立の問題の深刻化が懸念される」との認識を示し、必要な施策の「不断の検討」と「着実な実施」を掲げた。

 そもそも孤独・孤立の問題を抱える高齢者が全国にどのくらいいて、具体的にどのような状況に苦しんでいるのか。手だてを効果的に講じるため、まずは全体状況を正確に把握する必要があろう。

 政府は一昨年、新型コロナウイルス拡大で社会問題化したとして孤独対策に乗り出し、初の実態調査を実施。回答した約1万2千人のうち孤独感が「ある」とした人は約4割に上ったが、内訳は20~30代が多く、高齢者の現状をどれほど正しく反映しているか疑問が残る。今後より多角的な観点で実情を丁寧にすくい上げてもらいたい。

 関連で懸念されるのは50歳までに一度も結婚したことがない人の割合(未婚率)の急上昇だ。男性は1995年まで、女性は2005年まで1桁だったが、国の最新の調査では、20年の全国平均は男性が28・25%、女性が17・81%に達した。

 未婚率の上昇は単身高齢者増加の大きな要因とされる。就職氷河期の影響を受けた50代までの世代には、経済的理由で結婚を諦めている人も少なくないと考えられる。未婚で身寄りがないまま高齢化し、地域社会での孤立や生活困窮といった事態に直面しかねない。

 とりわけ持ち家がなく老後資金も乏しいと、深刻さは増す。生活の基盤である住宅の確保と周囲による見守りが「支援の両輪」のはずだが、いずれも課題を抱えている。

 低所得者らが借りる公営住宅は全国に約213万戸(21年3月時点)あるが、運営する1668自治体の約4分の3が入居の要件として連帯保証人を条例で規定していることが国土交通省の調査で分かった。家賃滞納への懸念からという。孤立の不安を抱える単身高齢者が増えていることを踏まえ、同省が18年から2度にわたって規定廃止を自治体に要請しているにもかかわらずだ。

 各地域で独居高齢者の見守り役を担う民生委員のなり手の不足も深刻だ。昨年末の全国一斉改選で、定員に対する欠員が1万5千人を超えた。戦後最多とみられる。

 「社会のあらゆる分野に孤独・孤立対策の視点を入れる」とする重点計画の基本理念から、現状は程遠い。

 政府は対策の基本となる新法案を今国会に提出し、岸田文雄首相をトップとする推進本部を設置する。施政方針演説で首相は「孤独や孤立に寄り添える社会を目指す」と宣言したが、実現には国民の全世代で問題意識をしっかり共有することが不可欠となる。