北朝鮮が、日本海に向けて大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射し、北海道西方沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾した。北朝鮮のICBM発射は昨年11月以来で、国連安全保障理事会の決議に違反し、地域の緊張を高める軍事的挑発にほかならない。
こうした暴挙を止めるためにも、日米韓を軸に国際社会が結束し、北朝鮮に対応する外交力が求められている。
今回の発射は、3月中旬に予定されている米韓合同軍事演習への反発と考えられる。北朝鮮は、演習を行えば「持続的で、前例のない強力な対応に直面することになる」と警告していた。
発射後、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記の妹、金与正(キムヨジョン)党副部長は「太平洋をわれわれの射撃場として活用する頻度は米軍の行動にかかっている」との談話を発表。ICBMに続き、短距離弾道ミサイル2発を日本海側に相次いで発射し、談話が決して空言ではないことを誇示した。
今後、発射兆候を探知されにくい固体燃料式の新型ICBMの発射実験や、7回目の核実験などに踏み切る可能性は高いとみるべきだろう。
北朝鮮は核・ミサイルの開発を進め、脅威のレベルを確実に上げてきた。今回のICBMは、2017年にも発射した液体燃料式の「火星15」と発表している。だが、今回は「抜き打ち」での命令による発射で、ICBMが実戦配備されていることを強調し、米韓を威嚇する意図がのぞく。
金総書記は昨年末の党中央委員会拡大総会で、核・ミサイル開発を加速させる考えを明らかにした。米本土に到達する新型ICBMの開発だけではなく、韓国攻撃用の戦術核兵器の重要性を訴え、核弾頭保有の「幾何級数的」拡大も指示している。日米韓の軍事的圧力を理由に、戦力の増強を図る姿勢はますます強まるばかりだ。
拡大総会では、金総書記が「人民の生活改善」にも言及した。食料やエネルギーの不足が続く中で、核・ミサイル開発に多額の資金をつぎこみながら、どのようにして人々の暮らしを向上させるのか、その道筋はまったく示されていない。日米韓に責任を一方的に転嫁し軍事的緊張を高める手法は、いたずらに人々を苦しめるだけだ。
こうした愚を思いとどまらせるには、日米韓の緊密な連携が重要となる。韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権が昨年末に発表した包括的な外交指針「インド太平洋戦略」では、北朝鮮の脅威などの懸案に対処するため、日米との協力を強化することが明記された。歴史問題を抱える日本と、安全保障の分野を優先して関係改善を図ろうという現実的な方向性と言える。
3カ国の連携を具体化するには、日韓の結束が極めて重要だ。日本政府は韓国政府のこうした姿勢を評価し、ミサイル発射情報の共有など協力関係を強化する必要がある。
同時に、北朝鮮との対話を模索する取り組みも重要だ。軍事的挑発に軍事的圧力で対抗するだけでは、事態がエスカレートする一方となりかねない。
緊張緩和に向け、北朝鮮に影響力があり、「朝鮮半島の平和のために建設的な役割を果たす」と繰り返し述べている中国を巻き込み、関係各国が外交力を発揮していくことも重要だ。「両にらみ」の外交政策が、日本には求められている。