文部科学省は、全国の国公私立校や教育委員会に対し、犯罪に相当するなど重大ないじめがあったときは直ちに警察に相談・通報し、援助を求めるよう通知を出した。「児童生徒の命や安全を守ることが最優先」とした上で「適切に相談・通報をしないことは懲戒処分に当たり得る。訴訟になれば責任を追及されかねない」と強調している。
また、けがや長期欠席につながったいじめについて、学校・教委はいじめ防止対策推進法に基づいて「重大事態」と認定し、第三者委員会で事実関係を調査するが、その際に報告を求める方針も決めた。年々増え続けている深刻ないじめに十分対応しきれていないとの危機感が見て取れる。
文科省によると、2021年度に小中高校などが認知したいじめは過去最多の61万5351件。そのうち小学校は50万562件、中学校が9万7937件だった。いじめが原因とみられる自殺を巡っては「学校がいじめを認めようとしない」「調査は不十分」と遺族が相次いで抗議し、自治体に再調査を求めている。
被害に遭った児童生徒や家族から繰り返し相談されたにもかかわらず学校・教委が事なかれ主義や保身から調査に動こうとしないことが少なからず見受けられる。文科省通知をきっかけとして、学校などは調査の在り方を含め、被害対応を根本から立て直すことが求められる。
警察との連携については、もともと、いじめ対策法が「重大な被害が生じる恐れがあるときは直ちに警察に通報し、適切に援助を求めなければならない」と規定しているが、学校などは警察の介入に抵抗があり、ためらうことが多いという。
このため通知では、犯罪に当たるかどうか判断しやすいように▽殴る蹴る、無理やりズボンを脱がせるのは暴行罪▽インターネット上で実名を挙げ、悪口を書き込むのは名誉毀損(きそん)罪や侮辱罪▽裸の写真を送信させるのは児童買春・ポルノ禁止法違反罪―と具体的に悪質な19事例を列挙した。
また重大事態の調査に関する文科省の指針は「事実関係を明らかにしたい、何があったのかを知りたいという被害者側の切実な思いを理解し、対応に当たること」としているが、被害者側の意向を全く顧みず、調査が進められる例が目立つ。
典型的なのは、北海道旭川市で21年3月、学校でいじめを受けていた中学2年の女子生徒が凍死したケースだ。生徒が19年6月に自殺未遂をしたのと前後して母親から何度も相談されたのに、学校や市教委は動かず、重大事態の認定は生徒が亡くなってからだった。
市教委の第三者委は昨年9月になり「凍死は自殺」と判断したが、いじめとの因果関係を明確に認めなかったことから母親は納得せず、市が12月から再調査している。
きちんと対応していたなら、悲劇を防ぐことができたかもしれない。大津市で11年に中学2年の男子生徒が自殺した問題で、いじめを見て見ぬふりをしたなどと、市教委のずさんな対応が厳しい批判を浴び、その反省を踏まえて、いじめ対策法が13年に施行された。
それから10年になるが、法の趣旨は依然として教育現場に浸透せず学校側と被害者側の溝は深まるばかりだ。絶えず対応の検証と見直しを重ね意識改革につなげていくことが必要だ。